はじめに
「なぎさ海道」は、自然環境の保全と持続可能な開発を基本に、人と海が豊かに触れあうことを目指し、大阪湾ベイエリアの新たな可能性を創造しようとするものです。平成9年3月に「なぎさ海道推進マスタープラン」が策定され、その理念と推進方策が提示されました。そして、平成9年度より、「なぎさ海道」を実現するため「広報」「交流・連携」「調査・研究」の多岐にわたる息の長い取り組みをはじめ、そのひとつである「なぎさ地域学」は、“市民と海辺との関わり”の視点で地域の個性を生かした豊かな海辺環境実現のため、「なぎさ海道」基礎調査として昨年度に引き続き平成10年度も取り組みました。
「なぎさ海道」の対象エリアは、海岸線の総延長約1,500kmに及びその後背地も自然環境豊かな地域から工業専用用地まで様々な地域があります。昨年度は1998年春開通の明石海峡大橋のある神戸市垂水区を中心に須磨区から明石市域を一連のエリアとしてとらえ、1]「なぎさ海道」実現につながる効果的で連携可能な取り組みの推進と支援、2]「なぎさ海道」を広く認知してもらうための顔づくり、3]海辺の個性を生かした新たなビジネスの可能性の検討を主要なテーマとして、その可能性を調査するとともに大阪湾ベイエリアにおける課題をまとめました。
今年度は、新たに2ケ所のエリアでの調査を行い、上記テーマ及び地域固有の可能性と課題について検討しました。調査対象エリアの選択にあたっては、汎用性ある課題をまとめるため、海辺を自然海岸、半自然海岸、人工海岸の3タイプに分類し、大阪湾全域を視野に入れ決定しています。昨年度の基礎調査の対象エリアである明石海峡周辺エリアは、護岸や養浜等によって整備された海辺が続く半自然海岸と位置づけました。今年度は、人工海岸として利用の異なる埋立地の続く芦屋市から大阪市西淀川区までを、自然海岸として大阪府下で唯一自然海岸が残されている岬町を中心に阪南市の男里川から和歌山市の磯ノ浦(二里が浜)を対象エリアとしました。前者は、住宅、工業、流通、レジャーそれぞれの異なる利用がなされている埋立地であり、現在開発中または用途転換がはかられるなど大阪湾ベイエリアにおける今日的課題を有していること、神戸市に隣接しており昨年度の課題として出された「トレイル」の連続性を考慮できることなどからエリアを特定しました。また後者は、関西国際空港の南に位置し、大阪湾の自然が残された地域として海辺の保全活用がなされていること、及び多くの漁港が点在し漁業資源及び海辺の生態系が豊かであることなどから、都市近郊の自然海岸での「なぎさ海道」の可能性が考えられます。
基礎調査では地域の持つ特性をソフト面に力点をおき、地域の人々と海辺環境の関わりを中心にとらえ、ハード整備の状況や海辺へのアクセス、海辺の産業、海辺の利用とメンテナンス及び地域住民の様々な活動状況とその背景となる文化的特性、自然環境特性などの基礎情報を通じ、地域の持つ課題や可能性をヒアリングや現地踏査を行うことで明らかにし、また、基礎調査委員会での討議を通じ課題と今後の展開への議論を深めてきました。
以上のようなプロセスを経て、平成10年度の対象エリアにおける「なぎさ海道」基礎調査を総括すると、当地域の現況として次のようなことが明らかになりました。
芦屋〜西淀川では、
●武庫川以西においては、海浜居住及び海浜レジャーのソフト・ハード両面からの整備が進められている。また、砂浜の保全・再生がなされているエリア内で遊歩道がつながっている。
●武庫川以東においては、企業用地の転換が迫られている一方で、海辺の環境整備・護岸整備・遊歩道整備などが、特に、西淀川において市民と自治体との連携による海岸の緑地整備が進められている。
男里川〜磯ノ浦では、
●阪南市域においては、海岸線に迫る住宅地と浸食が進む砂浜との間に背の高い防潮堤が続き、内陸部から海辺へのアクセスも悪い。一方、男里川河口部には自然の干潟が広がり、貴重な生物が生息している。