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さらに、このあたり一帯は、ハヤブサ、ハチクマ、サシバのような猛禽類をはじめ、ルリビタキ、カワセミ、アオバズク、チュウサギ、シロチドリ等々、様々な鳥類の楽園です。

このように多様で豊かな自然を荒らさないよう、人間と自然との共生が実現できるよう、由良地域を環境研究・教育やエコツーリズムの場としていくことが必要です。

 

●由良・生石研究付

由良・生石研究村は、由良から上灘にかけての陸域と浅海域を合わせ約5000haの範囲を環境研究・教育やエコツーリズムの場にするとともに、自然を介した内外の人々の交流促進と環境価値の再発見を図ろうとするものです。

1994年4月に、大阪港の望ましい環境状態を検討するモデルを探して、私達が訪れたことが、研究村づくりのきっかけとなりました。7月には、洲本市・由良研究交流センターが開設され、8月から、大阪府立大学、大阪大学、京都大学、海域環境研究会、大阪湾新社会基盤研究会など三大学四研究機関による環境研究が開始され、今も続いています。9月からは、シリーズセミナー環境と人間が始まり、毎年6〜9回、地元の人々が参加し、今も続けられています。

1995年10月には上灘地域において地元の人々と研究者による自然環境モニタリング調査研究会が発足し、野生のシカと人間との共生方策を見つけるための実験が続けられています。

現在、このような活動に参加する大学や地元の人々が増えており、研究村の先導拠点となる総合交流促進施設が、洲本市によって建設されています。1999年4月にオープンする予定です。

 

「由良の環境調査について」細田龍介氏/大阪府立大学教授

 

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バス内で説明する細田氏

 

●海域・陸域の環境

由良海域の環境研究は、1994年4月に生石海岸を初めて訪れた際、大阪湾にとてもきれいな場所が残されていると実感し、一度調査してみようと洲本市長に提言したのが始まりです。1994年11月から年に2回春と秋に、由良の人々と由良湾、山との関わりを把握し、環境がいい状態で保たれているメカニズムを見つけ出すことを目的で進めています。

海域では、曲良湾の流れや、新川口と今川口の流速、水温、水質、プランクトンや魚の卵、底質の調査等を行いました。どのような水質の水が流れているかを知るために、由良を流れる天川、立川等も同様に調査しました。その結果、岩石から鉄分や微量のマンガン等、藻場が育つための成分が検出されました。熊田の藻場付近の岩場にも含まれており、自然に岩が崩れていく段階で海に補給されていると考えられます。

干潟は一時期、硫化鉄や硫化水素で黒ずみ臭っていましたが、増えてきたアサリの水質浄化能力によって良くなってきました。春になると海辺は潮干狩りの人々で賑わっています。

由良湾は閉じられていてそれほど深くないため、魚の卵やプランクトンがたくさんいます。稚魚の間過ごす場所(ナーサリー)のようですが、現在河口付近ではリンや窒素の濃度が高くなっているのが気になります。

由良湾の背後には自然度の高い山地があります。ここにはウバメガシの純林に近いものがありますが、多様性という意味では少し問題が起こりかけています。昔は里山的に薪を取ったり、炭焼きをしたりと、人の手が入り半自然になっていたおかげで植生が豊かでしたが、ここ20年程は人の手が入っていません。

 

●集落と生活

海と山との関係が非常に良いこともわかりました。山から海に向かって細い道が通り、そこに立つと海も山も見えます。海と山とをつなぐ形で集落があります。この集落は1500世帯、人口5千人弱のどちらかというと過疎地域ですが、多くの方が環境に配慮した生活をしています。自分たちの目の前の海は自分たちの手で何とかしなくてはと思っています。一方で、魚のアラなどを平気で捨てる人がいるのも事実です。それが由良湾の中の窒素の供給源にもなっています。

 

●調査結果をモデルづくりに反映

由良湾で得られた調査結果を他の調査結果と比較すると、大阪湾の富栄養化が相当進んでいることがわかります。今のところ由良はいい状態に保たれているので、ここを拠点にして、大阪湾の環境をどのように管理していくかのモデルを作っていきたいと思います。

必要なデータのデータベース化と、活動の時間スケールが全然違うものを統一的に扱えるモデルを作っていきたい。今後5年はかかると思われます。

 

 

 

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