日本財団 図書館


郊外型店舗の影響をまともに受けて、中心部の大型店は相次いで撤退し、駅前から中心商店街までの通りは大型店の空き店舗が目だち、さらに拍車をかけるように、平成10年8月には市中心部にある市役所庁舎が、国道8号近く(大型郊外店近く)に移転した。

中心商店街は平成6年と9年とを比較して、約17%〜19%売り上げが減少している。郊外の国道沿いに大型店が集中してできた影響である。ただ、消費者購買動向調査による買い物場所割合をみると、中心商店街での買い物が20年間に30%近く、しかも徐々に下落している。以前は周辺町に進出した大型店や金沢市への流出が原因と思われたが、平成7年以降は市内の2大型店に流れている。

市役所の移転に関して、職員300名ほどの流出は、人の賑わいという点では影響があるが、職員も来庁者も多くは車で来ており、売り上げ的には大きな変わりはない。つまり市役所に所用のある人も車で来て、そのまま帰る。駐車場に車を止めてでも買い物をしようという魅力が低下しているということである。市役所の移転よりも、平成元年の「松任中央病院」の中心部から現市役所近くへの移転の影響を受けた。中央病院は地域の中核病院で、電車やバスに乗って遠方から通院や見舞いなどに多くの人が来ていたため、人の流れがなくなったときの影響(回遊、見舞い品などの購買がなくなる)は大きい。

市役所跡は図書館、小ホール、児童館などを備えた施設を構想している。撤退した駅前のショッピングセンター先の跡地も再開発を行う予定でいる。松任中央病院跡は平成3年に地元資本でホテルが建設された。ただ、現在の中心部には市役所の跡地、撤退したショッピングセンターが2店など、大きな空きスペースがあり、集客がある施設、人がたくさん働いている施設の移転は、まちの賑わい〜活性化〜という点で非常にマイナスだといえる。

市役所移転に際し、人がまちからいなくなるということで反対はあったが、市では人口的なバランスや建物の老朽化などを考え郊外への移転を決定した。市民の目からいっても、駐車場のない現在地での立て替えは妥当でなく、車でいくのに便利な、しかも病院や体育施設やショッピングセンターなど集客施設が多い郊外への移転は仕方がないというのが一般的である。

現在の中心商店街の状況は市役所の移転時にはすでに手遅れの感があり、近所の人が買い物をするだけの、しかも目的買いの商店街である。平成10年11月に来街者のアンケート(街頭インタビュー形式)を行ったが、人出が少なく4日間で200人、1日50人程度だが、街を歩いていた人ほとんど全員である。結果によると松任市一番の中心商店街(中町商店街・大型店ができる前は県内でも有数の商店街)の来街者は、周辺に住む人が6割で、そのうち60歳以上が50%、50歳以上なら75%にのぼる。ほとんどが徒歩で買い物に来ており、滞在時間は約30分である。しかも週に2〜3回来ている人が多い。つまり、周辺部に住むお年寄りが毎日のように今日のおかずを必要な分だけ買いに来ている、といった感じのもので中心商店街とは言い難い構造になっている。この商店街は空き店舗がほとんどない。住店一体型が多く、家賃もいらないため、実質空き店舗の状況であっても、住んでいるから他人には貸さない。商店街の青年部員は16名であり、これだけが後継者だといえる。郊外の大型店ができたとき、やる気のある人は中心街の店を閉め、大型店に出店した人が1店、支店を出した人が11店ある。今はほとんど大型店の店舗が中心になっている。

商店街の意識は「行政は何をしてくれるのか」というものである。行政のこれからの施策により店をやめるか、現在地でがんばるかを決めるというスタンスである。

商工会議所などでは中心商店街の中に少しでも客足を増やそうと、「女性の働く家」(市役所で行っていたもの)をスーパーの2階部分(テナントが撤退していった跡)で開催してもらっているが、地元からは「商店街の振興にはつながらない」との声も出ている。また、支援のための補助金などの申請もない状態にある。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION