従来、上越市の物価は全国の中では高め(全国平均に比べて月間2万円高いといわれていた)といわれていた。こうした上越市において、上越ウイングマーケットセンターは既存の商業施設よりも10〜40%安く販売を開始している。またこれに加えて、この施設との競争に対応するための既存商業の価格引き下げ努力、さらに新たな郊外型大型店やディスカウンターの進出により、地域全体として価格引き下げが展開されたとみられる。その結果として、開発事業者のコメントでは「今は上越市の生活費は全国平均よりも2万円/月程度安い」といわれている。
このように地域の小売価格の引き下げとともに、上越ウィングマーケットセンターでは広い商圏を設定することにより、地元のみを商圏としている既存店では揃えられなかった商品に対しても品揃えを拡大することにより、消費者の選択肢を増やすことを狙いとしている。
さらに、新規出店、既存商店街の棲み分けによる経営努力により、上越市地区全体としての業態、業種、商品、サービスなどの幅が広がり、消費者それぞれのライフスタイルに応じて選択できる機会が広がっているとみることができる。また、ある量販店によると、消費者に単に従来と同じ商品を安く購入してもらうのみならず、ワンランク上の商品の購買や関連する商品とのセットでの購入など、消費行動自体を提案しているとの指摘がある。
このような大規模なパワーセンターの展開に伴う競争激化に対応するために、既存商業者の経営努力によって商店街の変化が生じている。
上越ウィングマーケットセンターが計画された時点では、地元商業者側からは反発と不安の声があげられ、当施設の計画面積を縮小して合意に達している。実際に当施設開業後1年で、既存中心商業地であった直江津駅前、高田駅前の各商店街では来客・売上げが減少したとしている。全国的に経済環境が悪化し消費行動自体が抑制型になった時期ではあるが、上越ウィングマーケットセンターに消費者が流れたことが大きな要因とみられている。
そのため、上越市内の既存商店街では店舗の廃業や商店街の核となっていたスーパーマーケットの閉鎖などが確認されている。1995年に上越市が行った既存小売事業者への影響調査では、売上げが減少したとするものが74.5%となっている。その減少幅は、「10%以内」が40%、「11〜20%」が37%、「31%以上」が10%と、全体で減少傾向が顕著にみられた。
こうした状況に対応するため、地元商店街の魅力づくりの取組が行われている。個店毎に接客サービスの改善、価格の引き下げ、商品構成の見直しなどを行ったり、商店街内の量販店では市民ギャラリーを設置し魅力づくりを図る例もみられている。商店街単位では、共通カードを発行しポイントを貯めて商店街の商品券に交換するサービスや、郊外店に対抗するために午後8時までの営業時間の延長、夜間の駐車場無料化、などの取組も始められた。
既存個店全般には厳しい状況にあるが、こうした取組を通して秋のセール時に前年よりも売上げを伸ばした店も出ている。地域全体として、上越市に広域から集客している環境は、既存商店街の活性化のチャンスとみる意見も出ている。市民の声として、以前よりも商品の価格が下がった、品揃えが充実した、店員の応対サービスがよくなったなど、既存商店街の取組を評価する意見も出ている。
近隣市の商業集積の状況をみると、いずれの都市も商店数は減少しており、柏崎市、糸魚川市では従業員が減少している。また、年間販売額の伸びは、上越市では6年間で25%の伸びであるが、他の3都市との比較ではこれを上回っている。