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(イ) 小売業の競争環境変化に伴う影響の事例

上に述べたような業態展開の中でも、最近の傾向として、大規模な用地の確保が可能な郊外地においてショッピングセンターを整備し、品揃えの豊富さによる優位性によって、広域からの購買客を集めるという戦略のもとで店舗展開が進められている。

 

上越市

高速道路IC周辺地域に大規模商業施設が立地し、既存の中心市街地との競合が生じている事例として、新潟県上越市の「上越ウィングマーケットセンター」(新潟県上越市:1994年7月オープン、<立地>北陸自動車道 上越IC近接)がある。新潟県上越市は、直江津市と高田市が合併した市であり、それぞれの中心商業集積をもっている。上越ウィングマーケットセンターはこの中間に所在し、既存商業集積から独立した郊外立地である。広域とのアクセス条件としては、北陸自動車道の上越ICから車で5分程度の位置にあり、JR直江津駅・高田駅それぞれから車で10分の距離との比較でも分かるように、車利用を想定した立地となっている。また、バスの便がないことからも車利用を想定していることがうかがわれる。

上越ウィングマーケットセンターの全体規模は、敷地面積約15万m2、店舗面積約3万9,000m2と我が国の大規模商業施設の中でも最大級の規模を持っている。

基本的に車利用を想定しているため、駐車場は1,700台分用意されている。この駐車場を取り巻くように、平屋を中心とした店舗が敷地内に配置されている。上越ウィングマーケットセンターはディスカウンター、カテゴリーキラーの複合施設であり、全体で約90店舗から構成され、商品構成としては、生鮮食料品、靴、家電、衣料、おもちゃなど広範囲をカバーしている。

既存地元商圏はもちろんのこと、新潟県、さらに長野県・富山県の新潟寄りの地域からの車利用による集客もあり、高速道路が重要なアクセスの基盤となっている。かつては、地元購買力が長野県に流出していたが、現在は逆に長野県から上越市に集客しているとの指摘もある。

上越ウィングマーケットセンターの立地する上越市の既存商業は、以下のように地方都市商業の典型的な問題を抱える状況にあった。

・新潟・長岡市などの周辺都市と商圏を棲み分けて、安定しているが成長余地が限られた閉じられた商圏が形成されて、高値安定といわれる物価水準の状況にあった

・既存商業は競争が少なく消費者ニーズの変化への対応が充分でなかったそのため周辺のより大きな商業集積(新潟、長野、東京)への購買力の流出がみられた

・既存商圏においても商業集積が分散(合併した市であるため)し、また住宅の郊外化にあわせて商業の郊外立地が進みつつあり市商業全体の活力が弱まっていた

上越ウィングマーケットセンターを最も特徴づけるのは、『人の集まる地域につくるのではなく、人の集まらない地域につくることで人を集め、その結果、「まち」ができる』とする郊外型の大規模ショッピングセンターの形成で活用されているコンセプトである。こうした広域からの集客により、上越市の人口は約13万人であるが、上越ウィングマーケットセンターの来客数は、多い日は5万人以上、週末全般に3万人程度に達している。とくに、開業当初は当施設の知名度の関連もあり、県内広域からの集客が主であったが、徐々に話題性が注目され、県外からの自動車利用も増加している。生鮮食料品関連では、週末の買い物客の3割以上が県外、売上げでは県内と県外が半々とみられている。また、大型バスによる買い物ツアーや遠隔地居住者の間ではグループによる分担制による買い出しという新たな購買形態も発生している。

このような結果、平成7年には上越市全体の小売販売額約2,700億円に対して、上越ウイングマーケットセンターは約240億円の売上げを達成し、全市の9%を占めるに至っている。

 

 

 

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