1]配分比が個別税法で明確に規定されている税種と並行して、各年度連邦予算法などで配分比が容易に変更されてしまう税種も少なくない。これは構成主体や地方自治体の財政を不安定化する大きな要因となっている。
2]すでに指摘したとおり、構成主体の間には産業活動や住民の所得水準に関して大きな格差が存在する。したがって、税収の配分比がすべての構成主体に対して一律であることは、企業利潤税、個人所得税などの税収の絶対額に大きな格差を生み出している。
(2) 財政政府間関係と財政資金の再配分
いうまでもなく、ロシアは連邦国家である。しかし、さまざまな分野での権限の画定を含む、いわば「政治的連邦体制」は十分に確立されているとはいえない。構成主体の首長が大統領の任命制から有権者の直接選挙による選出に移行したのは、1996年のことである。財政における連邦体制についても、依然として形成過程にある。原理的な問題としては、連邦政体の下で、連邦予算が、どの程度、各構成主体の財政能力の平準化を目的とする財政資金の再配分機能を発揮すべきかという問題がある。
連邦予算から構成主体予算への資金の移転については、すでに上でも指摘した通り、さまざまな形態で行われている。そのうち主要なものについて、以下に指摘し、その役割を検討したい。
ア 移転資金(Transfer)
連邦予算は、1994年予算法以降、予算内基金として「地方財政支援基金」を設け、1994年〜95年には付加価値税収入のうち連邦財政の取り分を源泉とし、また、1996年予算法以降は総税収の15%を源泉として、支援を必要とする構成主体に移転資金(Transfer)を交付している。この際の計算基準は各構成主体の1人当たり税収額である。地方財政支援基金は連邦予算の総歳出額の約13%(1996年)を占め、同年の全構成主体の統合予算の歳入の中で、12.4%を占めている。この移転資金は、各構成主体の財政力の平準化を目的としており、財政力の著しく弱い構成主体(ロシア極東地域の例ではユダヤ自治州)では総歳入額の47.7%を占める一方、モスクワ市など財政力のとくに強い構成主体には交付されていない。
イ 補助金(Subvention)・交付金(Grant)
移転資金制度が連邦予算法で導入される1994年までは、補助金、交付金が連邦予算から構成主体・地方自治体への財政資金の移転で大きな役割を占めていたが、現在では、モスクワ市に対する「首都機能維持」、ソチ市に対する「全ロシア的意義を有する保養施設の維持」を目的とする補助金、高度な機密を持つ軍産複合体産業が立地し、自由な投資活動が行えない「閉鎖都市」に対する交付金以外は、主要な資金の移転方法としては機能していない。