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もちろん、内政不干渉の原則に反するという批判は免れないが、既に述べたように、内政不干渉の原則が持つ通用力が次第に低下している。昨今の研究動向を概観すると、早期警戒の提唱など、その傾向は一層促進されるように思われる。そして、早期の外部関与が内政不干渉の原則違反であるという批判を受ける可能性がより低いのは、「アメ」的手段であろう。また、「ムチ」的手段は、制裁の意図による威圧こそが重要なのであり、実際に制裁を実施するならば、外部アクターが当事者化し、対立に巻き込まれるという危険性も生ずる。

 

イ 多民族性維持を認容する意識の育成

 

「アメ」的手段、「ムチ」的手段のどちらを実施しようとも、体制を維持あるいは再建する主体は、当該国家の国民であり、当該国家の国民が、多民族性を認容する意識を育成することが肝要である。既述のように、社会的緊張が増加し、地域・民族的不満を感情的に訴える対抗エリートの立場が強化されることが、多文化主義的体制の動揺に大きな影響を与える。したがって、こうした対抗エリートが、各地域・民族の政治的舞台において、急進的な行動を起こすことを防ぐことが必要である。

こうした意識の育成は長期的なプロジェクトであり、特に教育の側面が強調されなくてはならない。それには、多民族性の平等な維持だけでは不十分である。何故ならば、各地域や民族のアイデンティティを発展させるだけでは、他の地域や民族についての無関心性が増殖しかねないからである。しかしながら、そうした危険性が、架橋的アイデンティティを上から強制することの理由に直結する訳ではない。むしろ、それによって、架橋的な国家的・国民的アイデンティティの内容を巡って、必ずしも建設的ではない議論が繰り返される可能性が生まれてくるであろう。

多文化主義的体制の維持、そして多民族性の認容には、各単位に対するアイデンティティの平等な発展とともに、他の単位のアイデンティティや文化を尊重するという意識が、まず何よりも必要なのである。そして、民族の領域的な次元よりもメンバーシップの次元を強調することが、多文化尊重により有効に作用するであろう。

 

補説:東欧の多民族性

本稿が専ら対象としている東欧は、典型的な多民族混住地域である。その特徴について簡述することは、本論の内容に関する理解に有益であろう。

東欧のみならず、一般的に、多民族混住地域を理解するには、その歴史的経緯が重要である。それでは、東欧の歴史における特徴は何であろうか。しばしば指摘されることは、東欧という地域の歴史的周辺性である。

 

 

 

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