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(1) 多種共存の4つの特徴

 

多極共存の代表的論者の1人で日本でも広く知られているオランダの政治学者A.レイプハルトによれば、民主的な多極共存は、大前提としての大連合、そしてそれを補完する相互拒否権、比例制原理、各区画内の自律性の3つの手段、合計4つの特徴を有する。これらを順次、多民族国家の文脈において簡単にみておきたい。

まず、第1に「大連合」とは、多民族国家におけるあらゆる重要な民族の政治リーダーによる連合である。そこでは、単純な多数決主義は存在しない。同質的な社会を有する国家でない場合には、多数決主義によって生ずる対立の構図は、統治の不安定性を招きかねない。多数決主義によって少数民族を意思決定過程などから排除することは、少数民族の意見の急進化を招く可能性がある。そこで、少数民族を意思決定過程に包摂することによって、少数民族を国家から離反させないようにするのである。意思決定の効率性は短期的に犠牲にしながら、長期的な国家の安定性を図るというものである。

次に、少数民族が大連合に参加したとしても、それによって少数民族の意見が保護される訳ではない。大連合内部において、深刻な意見の対立が生じた場合、いずれにせよ投票で決定が行われるとすれば、結局、少数民族の意見が無視されることになる。その結果は、少数民族の国家からの離反に繋がりかねない。そこで、少数民族の代表にも拒否権を与えることで、少数民族の意見を最終的に保障しようとするものである。しかしながら、後述するように、少数民族に対する相互拒否権、換言すれば、意思決定過程における全会一致の原則は、場合によっては少数派の専制を招き、意思決定過程の麻痺に至るという危険性もあるのである。

第3の比例制原理が導入されることにより、さまざまな資源の争奪という、民族間の緊張を生み出す要因を、予め排除しておくことが可能となる。さまざまな資源が、各民族の規模に応じて自動的に比例配分されることによって、資源の独占を目論むような多数派民族の行動は抑制されるであろう。その結果、意思決定過程に無用な雑音が挟まれなくなるのである。また、さまざまな意思決定機関のポストが比例配分されることによって、意思決定過程に対する各民族の影響力も、それぞれの規模にほぼ比例して行使されることになる。しかし、比例制原理では、二者択一を迫られる争点を巡る対立は解決し得ない。

 

 

 

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