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(2) 連邦制の問題点

 

連邦制が抱える問題の1つには、行政的効率性の低下がある。しかし、この問題は、各民族の平等性を前提としつつ、多民族性を維持する方策に共通する問題であるので、後に纏めて論ずる。ここでは、連邦制が特に抱える問題として、以下の2点を指摘しておきたい。

 

ア 構成単位間の境界

 

連邦制において、自治を与えられる次元は、構成単位が共和国であろうと州であろうと領域的なものである。この点が、連邦制における大きな問題に繋がるのである。

前述のように、多民族混住地域においては、国境を如何に画定しようとも、一国内に一民族しか居住せず、国内の少数民族が存在しないという「民族国家」が現出することはあり得ない。こうした国境と、民族居住地域間の境界との不一致という点は、連邦制における構成単位間の境界の画定に共通する問題である。すなわち、構成単位間の境界をどのように画定しようとも、各構成単位に少数民族が居住することが常態である。換言すれば、構成単位間の境界を跨って居住する民族が存在するということである。もちろん、アメリカ合衆国も多民族が混住している国家であるが、各民族が比較的各地に分散しており、2つの境界の不一致の問題はそれほど深刻な民族対立を生み出さないであろう。

しかしながら、各民族が、混住しつつも、歴史的に特定の地方内に比較的コンパクトに居住しているケースでは、状況は全く異なる。なかでも、ある構成単位Aにおける中心的な民族X人が、隣接する様成単位Bにおいて少数民族の立場を甘受せざるを得ない場合、事態は複雑化してくる。Aの中心的な民族X人としては、Bにおける民族的同胞が置かれている状況に無関心ではいられない。特にBの中心的な民族であるY人が、同化や排斥など多民族性を除去しようとする方策を展開するならば、BにおけるX人に対する同胞救済の意見が高まることになろう。また、BのX人にとっても、いわばX人の民族的本国に当たるAのX人に対して、Bにおける苦境を訴えることになるのである。このように民族間の緊張が高まると、緊張は連邦レヴェルに飛び火し、連邦制には、それに対する有効な手だてが殆ど存在しない。むしろ、後述するように、連邦制を通じて、民族対立の当事者が明確化されることによって、事態はむしろ悪化すらする可能性があるのである。

他方で、そもそも現実には殆ど存在し得ないが、構成単位間の境界と民族居住地域間の境界が完全に一致している場合は、どうであろうか。両境界が完全に一致している場合は、各構成単位内には特定の民族しか存在しない。

 

 

 

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