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ポスト冷戦時代にはいると、自決権は新たな展開を見せることになる。それは、「内的自決 internal self-determination」権が認められるようになってきたという点である。独立後に成立した体制が、住民の人権を侵害し、特に少数民族の各種の権利を損なう場合がしばしば見られる。そうした抑圧的な体制は、本来は、国内における民主的な手続きを経て交代することが望まれる。しかしながら、そうした体制は、実質的な民主的手続きを認めない場合も多い。そこで、体制の選択までも自決権に含め、それに向けて外部から圧力をかけ、特に少数民族の権利を保護しようというものである。自決権が、「内政不干渉」の原則に優越するという判断である。

他方で、「国境不変更」の原則は、依然として高い通用力を有する。ここに「国境不変更」のままで、少数民族の自決権を保護する必要が生ずる。そこで、多民族地域における民主的な自治を考慮する必要が生じてきたのである。こうした点は、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ内戦を終了させたデイトン合意や、現在のコソヴォ内戦に多くみられる妥協案などにおいて明らかである。

 

2 多民族性を除去する方策

 

多民族混住地域においては、多民族性にどのように対処するかという点は、最も重要な問題である。

多民族性に伴う民族対立などの問題を回避するには、多民族性を除去するという方法が最も手っ取り早いやり方である。こうした方法は、まず、国境を変更するか否かという基準によって2分される。しかし、多民族混住地域では、国境をどのように画定し、多民族国家を分割しようとも、必ず少数民族が国境内に居住することになる。確かに、ウィルソンによる民族自決理念が適用されて、第1次世界大戦後に東欧諸国間の国境が改めて画定されることによって、少数民族の数は減少した。しかしながら、だからといって、少数民族問題が完全に解決されたわけではなかった。むしろ、国家経営の経験のない支配的民族に、経済基盤の脆弱な国家を委ねたことは、民族対立の激化を招くこともあったのである。

それでは、国境を変更せずに多民族性を除去するには、どのような方策があるであろうか。

世界史的にみれば、こうした方策には、少数民族を物理的に国内から消滅させる手段である「排斥」と少数民族を文化的に消滅させる手段である「同化」がある。史上、「排斥」の中で最も過激な形態であるのは、対象とする少数民族を地球上から抹殺するジェノサイドである。

 

 

 

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