ポドポリーナは、現在の自治体は無権利状態(事実上、連邦と構成主体の予算法の体系と「地方」における税制の欠如)にあり、ソビエト的な、すなわち非市場的で行政的な租税・予算制度の複製が機能しているにすぎず、地方税制度も未整備なままであるとしている。民主的な市場国家であるなら当然に存在するべき、自律的な財政・行政的なカテゴリーが欠如しており、地方の固有の財源は3分の1未満、その内租税収入は3〜5%(最大でも10%)にとどまっていると嘆いている(15)。
同じくポドポリーナによれば、この法律は重大な欠陥をもっており、地方予算、行政・地域単位の予算の執行に対する監督について、予算関係における地方自治機関の権限がそこでは規定されておらず、連邦及び構成主体の税のうち、若干が地方予算に組み入れられるにすぎず、国家権力機関の側からの地方自治機関への予算措置の多くは「宣言的なもの」にとどまっている場合が多いとされる。地方財政法は、立法化という点での一定の前進的意味をもちつつも、新たな論点をも提起したようである。このことは、一面では、地方自治体が固有の財源をもたず、自律的団体としては成立しえていないという現実をも意味しており、自治の実現のために国家介入が求められるという逆説をここでも表面化させることとなっているのである。
(3) 行財政自主権をめぐる問題状況:イルクーツク州の事例から
地方自治体が、財政自主権を現実に行使しうるかは地方自治の内実を推し量るうえで重要な判断基準となりうる。そして、財政自主権を行使するうえで、自治体財政を担当する行政機関の構成及びその人事について、地方自治機関の自主的権限が確保されているかどうかは、これまた重要な基準とされなければならない。以下に紹介するイルクーツク刑法をめぐる州裁判所及びロシア連邦最高裁判所の判決の事例は、まさに財政をめぐる行政の機構及び人事、さらにはそれらに伴う予算の編成・執行に深くかかわるものであり、今日のロシアにおける地方財政の実情の一端をうかがわせるに十分な素材を提供しているものと考えられる(16)。
イルクーツク州では、1995年2月10日に、「イルクーツク州における予算編成及び予算過程に関する法律」が採択された。この法律によって、州財務局は、財政・予算計画、生産及び社会・文化領域の財政の統一的原則の順守、市及び地区の総合的社会・経済発展のための財政的基盤の整備について市及び地区の財務機関の活動を方向づけ、財務活動の調整を行なうと定めた。州財務局長に対しては、執行機関の提案により市及び地区の財務部長の任免を行ない、連邦財務省の定める総定員及び賃金フォンドの枠内で市及び地区の財務部の職員定数を決め、割当てられた支出予算の範囲内での支出を決定する権限が与えられたのである。