イルクーツク市議会及び市行政庁は、この州法の条項は地方自治機関の活動への干渉とみなし、州議会及び州知事を相手どって、州の予算編成に関するこの法律の第32条の規定の無効確認に関する訴えを裁判所に行なった。この時点では、すでに州憲章が制定されており、地方自治機関は独立してその機構の決定、財政活動、地方予算の承認及び執行を行なう権利があることを定めていたため、争点は州憲章に対する州法の不適合があるかどうかにあった。州裁判所は、イルクーツク市側の勝訴判決を下し、連邦最高裁判所は、州の上訴による破棄審においても、それは支持され、破棄申立ては棄却された。
この事件で興味深いのは、州裁判所における原告側の代理人が、これらの請求の裏づけとして、ヨーロッパ地方自治憲章の第4条、第6条、第11条の違反を指摘し、原告の側からの連邦予算法の規定に関する何等の違反も存在しないとしていることである。ちなみに、地方自治憲章第4条は、地方自治の範囲をうたい、自治体の権限に対する中央政府または広域団体による侵害または制限を排除し、第6条は、地方自治体の行政機構と職員に関する規定をおき、法律上の一般的規定に違反しない限りにおいて、地方自治体の内部における行政機構を自ら決定するとし、さらに、第11条は、地方自治の法的保護を定め、自治体の権限の自由な行使と憲法や国内法の保障する地方自治の原理の尊重を確保するために、司法救済を求める権利をうたっている。地方自治憲章にいう広域団体とは、ロシアでは構成主体(構成共和国や州または地方など)がこれにあたるといってよい。
原告側、すなわちイルクーツク市議会及び市長の側の主張はこうである。この州法の第32条は、州財務局と州内の市及び地区[以下単に市及び地区]の財務部はイルクーツク州の財政の管理機関の体系をなし、州財務局は市及び地区の財務部の活動を指導し、調整するとし、州財務局長はロシア連邦財務省の定める総定員及び賃金フォンド、州機構並びに市及び地区の財務部の機構の管理に割当てられた支出予算の範囲内で市及び地区の財務部の職員定数枠を決定する、と定めている。さらに、市及び地区の財務部に関する規定は州財務局長が当該地域の執行機関の長の用意を得てこれを承認することとされており、この規定は、ロシア連邦の法令が定める権利の範囲内で地方自治機関を形成し自主的な財政活動を行なうというイルクーツク州地方自治機関の憲法上の権利を侵害し、またロシア連邦憲法第12条及び第131条、1993年10月26日付の段階的憲法改革期にけるロシア連邦の地方自治の組織原則に関する規程の各条項、1994年1月13日付のイルクーツク州における地方自治の組織原則に関する規程第13項、1994年8月19日付のロシア連邦財務省規程第2項に違反する。