日本財団 図書館


3 ロシア地方自治法の課題と問題点―地方行財政を中心に―

 

(1) 予算、財政状況

 

地方自治の実現が、経済改革にとって重要であると同時に、地方自治の確立にとってもまた経済状況は死活的ですらある。財政自主権を論ずる基盤がありうるのかが、まさに現在のロシアの地方自治体の生の姿であるからである。

前年度の報告で、地方財政法の制定後の1997年9月末に開催されたロシア連邦地方自治評議会において、エリツィン大統領が、ヨーロッパ自治憲章にふれて、地方自治法そのものについて高い評価を加えながらも、その後の2年間にそれが十分な形で実現されたわけではなく、その主要な原因が財政問題にあったことを明らかにしていたこと、中小規模の市町村は特に厳しく、大都市の大部分でもその予算の半分以上を上から与えられており、歳入が歳出の10%以下にとどまっている構成主体があることを指摘していたことを紹介した(13)。地方財政の実情は、しかし今も改善はされていない。1997年のこの会議で、当時の第1副首相だったチュバイスが、1998年度にインフレが5〜7%に抑えられれば地方自治体の財政基盤も好転するだろうと述べていたことも紹介したが、その期待は見事に裏切られ、1998年度はふたたび激しいインフレに見舞われた。ロシアの地方自治は、この点からいってもなおその見通しは暗いといわなければならない。地方自治体の財政基盤の弱いことを指摘し、自治を主体的に担保しうるほどの財政力またはその保障をもたないことはしばしば具体的な事例が紹介されているので、ここでは法制面を紹介するにとどめたい。

 

(2) 地方財政法の制定

 

この地方財政法は、1997年9月10日に国家会議によって採択され、上院の同意をえて、同年9月25日に大統領が署名し、公布された(14)。全文については、資料編を参照願うとして、ここでは、その概略を紹介しよう。

まず、この法律は、地方自治機関と国家権力機関の財政上の相互関係などの手続を定めており、ロシア連邦の国家権力機関及び構成主体の国家権力機関が、ロシア連邦及び構成主体の法令が定める手続にしたがい、地方財政の発展を援助する、と定めている。そのために、ロシア連邦及び構成主体の個々の国家的権限を地方自治機関に移転するに際しては、これらの権限を行使するのに必要な物的資源及び財源が、権限の移転と同時に地方自治機関に供与され、ロシア連邦または構成主体の国家権力機関の採択した決定の結果生ずる地方予算の支出の増大または収入の減少は、この決定を採択した機関がこれを補償することになる。

地方自治体がどれほどの財源とその自主的管理権をもちうるかは重要な点であるが、地方財政法は、地方予算について、およそ以下のように定めている。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION