もちろん、これまでにも隣接する基礎自治体が連合組織を作ったケースはあった。そして、現在も地理的な特徴、産業構造などの特徴を共有し隣接する基礎自治体の地域連合は存在する。たとえば、ロドピ地方、黒海沿岸、ドナウ川流域、中部バルカン山脈などに位置する基礎自治体の地域連合組織がある。
しかし、全国基礎自治体連合の設立は地域連合組織に比べ、大きな影響力をもつものとなった。これまで基礎自治体が国民議会に対し中央政府の地方政策、地方自治、地方行政にかかわる法の議論に際し、その見解、態度表明を行うチャネル、場は設けられていなかった。たしかに、裁判所に申し立てるという方法はあるが、直接的に国民議会に働きかける方法は定められていなかった。法改正によって基礎自治体は個々にではないが全国基礎自治体連合に加盟すれば同連合を通じて、国民議会、その委員会審議にオブザーバー参加でき、審議内容が地方自治、地方行政、地域政策にかかわるもの、あるいは基礎自治体への補助金なども含む共和国予算審議であれば、連合は加盟基礎自治体を代表して、見解を述べることができるようになった。基礎自治体が地方自治、地方行政に関係する諸問題に限ってではあるが、国政に影響を与えうるルートが制度化されたことになる。すでに、地方自治関連法案例えば、地方税法の改正や行政機構法の改正にあたって委員会審議、改正案の立案作業にも加わり、基礎自治体を代表する立場から地方自治の改善を目指し、実を上げている。
全国基礎自治体連合の最大の任務は国民議会、その委員会における予算、法案審議に際して、基礎自治体を代表して姿勢を示し提案を行うことであるが、その活動は基礎自治体の抱えるさまざまな問題に対し技術的援助、相談を実施し情報サービス、経験の共有を図る日常的な側面ももっている。現地での聞き取り調査で、連合は1日あたり10件程度の相談を受けており、国内各地から基礎自治体の諸問題(財政や法律相談が多いが)や要望が寄せられ、あるいは、訪問を受けていることが判った。基礎自治体は首長を中心に執行機関が形成されており、とくに、行政を組織する書記は高等教育を受けていることが資格要件ともなっている。しかし、都市部ではなく村落部の基礎自治体では書記以外に専門知識をもつ職員がおらず情報、技術サービスを必要とする場合が多々ある。
全国基礎自治体連合はこうした基礎自治体のニーズにも応え、基礎自治体の立場から中央の政治に物申すだけでなく、基礎自治体への地道な援助、知識、実践の共有を通じて、ブルガリアの地方制度の中にその存在意義と場所を確立しつつあるように思われる。少なくとも全国基礎自治体連合の存在と活動は、すでにブルガリア社会にとりわけ地方行政、地方自治にかかわる人々の認めるところとなっっている。昨年秋、連合の活動(とくに、基礎自治体職員に対する技術的な支援についてだが)に「不満」を感じた人々が中心となって、基礎自治体行政の中核となる書記の質的向上を目的として全国基礎自治体書記協会が設立された。これもまた広い意味で、連合の副産物といえるのかもしれない。