ウ 首長の権限
基礎自治体の首長は、基礎自治体における執行権力機関と位置づけられている。首長は住民の直接選挙によって選出され、任期は4年である。首長は自らの副首長一人あるいは数名を基礎自治体議会に対して提案する。議会はその提案に基づいて副首長を定員数の過半数の賛成によって選出する。首長はまた、基礎自治体の行政活動全般を組織する書記を任命することができる。書記は副首長の場合と異なり、議会の承認を得ることなく任命することができる。基礎自治体行政の執行部をなす首長、副首長、書記のうち、住民の直接選挙によって選ばれる首長、議会の承認を必要とする副首長は中等教育以上の教育を受けていることが資格要件となっている。それに対して、書記は高等教育を受けていることがその資格要件である。
基礎自治体の首長の職務は以下のようなものがあげられる。
―基礎自治体における行政執行を指導する
―関連機関との調整を行う
―基礎自治体の行政に携わる職員を任免する
―社会秩序の維持に責任をもつ
―基礎自治体議会の承認を受けた予算を執行する
―基礎自治体にかかわる長期的計画の実行
―基礎自治体議会の下した諸決定の実行
―法律、大統領令、閣議令が基礎自治体首長に対して規定する諸課題の実行
―基礎自治体内の個々の構成区長と区長の活動を調整し、また、その法令等が適法であるかどうかを監督する
―政党や社会組織、国内外のさまざまな地方自治体との関係を維持する
―災害、事故に際して住民の保護活動を組織し実行する
―基礎自治体議会が承認した都市建設計画に署名し、計画を実施する
―書面の命令により首長の諸機能の委任を行う
―他の法人、裁判所に対して当該基礎自治体を代表する
―基礎自治体議会に対して技術的サービスを保証する
基礎自治体首長は法律が規定する場合、中央政府が首長に対し委任する諸機能を果たす。
基礎自治体における首長と議会の関係を考えるとき1つの指標となるのは首長令をめぐる両者の関係である。首長は首長令を議会に諮ることなく発行できるが、発行後2か月以内に開催された議会において、議会側は首長令を破棄することができる。一方、首長は議会の決定を差し戻し審議させることができる。議会側が再度同じ決定を下した場合には、首長はその決定の執行の是非を法廷において争うことができるのである。