例えば、同改正案第5条は、地方自治体に付与される権限が完全かつ排他的であると規定し、権限が法律に規定された場合を除いて、他の機関によって制限を受けないことを明確にしている。
また、権限の行使がどのレベルの行政機関に属するかについても規定を設け、権限をめぐって異なるレベルの行政機関の間で争いが生じないよう、一応の基準を設けている点も注目される。例えば、改正案第7条第1項は、権限は市民に最も身近な公共機関(基礎自治体)が行使するとの規定を設けた上で、同条第2項において、例外として、権限の規模や性質、さらには効率を考慮して、他の機関が行使する場合も想定し、柔軟な対応の仕方を打ち出している。さらに、例外事項として、中央機関が地方自治体に関与する場合も想定しているが、同時に適切な財政的裏付けを保障せずして公共事業の責任を地方に押しつけてはならないとも、くぎをさし、同第8条で中央機関が決定を下す前に地方自治体と事前協議をする必要性を協調している。
第2に、イリエスク政権下では中央集権制が強く、地方自治体の諸外国との協力は禁止されていたが、現政権下では自治体が外国の地方自治体や外国の組織ないし諸機関と協力を推進していくことを想定して、政府の改正案第12条〜第13条で規定を設けていることである。ただし、この場合も、同第14条第1項で、地方自治体が決定を下す前に外務省に届け出をする義務を定めており、国家機関による統制に配慮がなされている点に注目する必要がある。しかしながら、かりに、外務省と地方自治体が争った場合、どのような手続きがとられるべきかについての規定はない。
第3の特徴は、少数民族地域の地方自治に関して特別の条項を設けている点である。改正案第17条は、少数民族が20%を越える地方自治体での少数民族の母語の使用を保障している。
(3) 地方自治体の種類
ルーマニアにおける行政単位の階層は、国―広域自治体としての県―基礎的自治単位である町ないしコミューン、という3層からなる。首都ブカレスト市は県と同じレベルの広域自治体の範疇とされ、その下位層に6つの区が置かれる。他方、町は法律に則って市と宣言でき(憲法第5条第3項)、市は下位の行政・領域単位を持つことができる。コミューンは1つないし複数の村から構成される(現行法第2条/同改正案第18条)。