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とはいえ、憲法上の地方自治の位置づけは、曖昧な点を多く残したままであり、ルーマニアの地方自治は、具体的には法律を通じて定められることになった。ということは、同国の地方自治の具体的在り方が、その後の選挙結果に基づく政治勢力関係に大きく左右されることを意味した。

 

(2) 地方行政法の概要

 

1991年11月に採択され、1996年4月に修正された地方行政法(以下、「地行法」という。)は、憲法規定を受けてその第1条で地方行政に関する以下の諸原則に言及している。すなわち、地方自治原則及び公共サーヴィスの分権化、地方自治体の適格性、合法性及び重大な問題に関しての住民との協議の原則である(13)

また、地方自治に関する定義も行われ、それは地方自治体が、その名において、かつ、その責任の下で、公的問題の重要な部分を、地方住民(集団)の利益のために、解決し管理する権利及び実際の能力である、とされた(14)

憲法で規定されなかった県と基礎自治体との関係は、自治、合法性、協力の原則に基礎を置くとされ、両者の間には従属関係はないとされた。また、地方自治を保障するために、憲法は地方自治体の財産所有権、地方予算や地方税の保証を規定したが、それ以外に地行法は、重要問題に関して住民投票にかけて直接住民の意向を問うことをも義務づけた。

さらに、県知事の行政裁判所への違法性の訴えに関して、裁判所がその訴えを悪意によるもの、あるいは権限の乱用であると判断した場合、知事は法律に則って責任を負うものとされ、知事の権限に一定の制限が設けられた。

このように、地行法は地方自治を保障するための具体的な規定を設けたが、とはいえ地方自治の過度の保障が、ルーマニア国家の解体へと至らないよう、幾つかの制限条項が付加されている点は注目に値する。この点に関しては、現政権も同じ立場を踏襲している。例えば、現行の第1条第2項は地方自治が行政に限られること、及びそれが法律の範囲内で行使されることを明記しているが(現在の改正案では第4条第1項)、この条項は、1991年に法律(以下、「旧法」という。)が作成された段階では存在しなかったのであり、1996年に意図的に加えられた点が興味深い。また、現行法第1条第4項は、地方自治の諸原則が国民国家及び単一国家という点に抵触しないよう言及し、改正案に至っては第2条第2項がこれらに加えて国家の不可分性にも触れて、地方自治がルーマニア国家の解体へと至らないよう歯止めを設けている。このような地方自治に対する警戒心の強さは、冒頭で触れたルーマニアの歴史的・政治文化的要因に根ざすものである。

以上は、地方自治に関して、イリエスク政権及び現コンスタンティネスク政権双方に共通する姿勢であるが、現政権にのみ特徴的なことは、第1に、現政府の地行法改正案が、地方自治体に付与された権限について、一層詳細な規定を設けている点である。

 

 

 

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