4 現在の地方自治体の法的位置づけと種類
(1) 憲法上の位置づけ
共産政権崩壊後の新憲法は、1990年5月の選挙で成立した憲法制定議会において、1991年11月21日に採択され、12月8日に国民投票にかけられて、公布された。同憲法は第5章第2節を地方行政の項目にあてており、地方自治の原則がルーマニア史上はじめて、憲法を通じて保証されることとなった。第5章の第2節「地方行政」の第119条は、地方自治の原則を次のように規定している。「地方自治体の行政は地方自治の原則及び公共サーヴィスの分権化の原則をその基礎に置いている。」
そして、行政構造が中央―県―町及びコミューンという3層構造からなることが規定され(第5条第3項)、町及びコミューンにおける地方自治の具体的な担い手は基礎自治体議会(町議会、コミューン議会)と首長であると明示された(第120条第1項)。また、基礎自治体議会と首長が住民の公選によることが明記され(第120条第1項)、それらが自治的行政機関として機能し、町及びコミューンにおける公共問題の解決をはかる、と定めている(第120条第2項)。
他方、県の利益に沿って公共サーヴィスを行うために、基礎自治体議会の諸活動を調整する機関が県議会であり(第121条第1項)、県議会は選挙によって構成される(同条第同項)。
これに対して、政府の任命による、地方における政府の代表機関が県知事及びブカレスト市知事である(第121条第1項及び第2項)。知事は、基礎自治体に対して、中央省庁の諸機関の活動を指導し(第121条第2項)、県議会、基礎自治体議会及び首長が出した条例等が違法であると判断したときは、行政裁判所に訴訟を起こすことができる(第121条第4項)。知事によって違法性を指摘された条例等は一時停止される(同条同項)。
知事のその他の権限については法律で定めるとされ(第122条第3項)、憲法で具体的に定められていない。また、基礎自治体議会及び首長の権限などについても一切規定はなく、基礎自治体議会と首長との関係及び県議会と知事との関係も具体的な規定はない。
ただ、憲法第135条第3項は公共財産が国家のみならず地方自治体にも属すると明記し、また憲法第137条第1項は全国予算(buget public national)のなかに、国家予算や国家社会保障予算とととに、基礎自治体及び県の地方予算が含まれることを明確にした。ちなみに、全国予算とは、国会、大統領、政府、裁判所などの予算や、ルーマニア・アカデミー、科学研究所などの予算とは異なるとされる(12)。さらに、第138条第2項は、基礎自治体議会ないし県議会が法律の範囲内及び条件内において、関税や地方税を定める権利を持つことを明記した。これで、地方自治を推進する上で不可欠な地方の財政的基盤を、地方自ら確保しうる可能性が、少なくとも憲法上は保障されたことになる。