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また同法は、コミューン、町、県各々の議会、及び首長、知事、書記、公務員の権限、機能、責任についても規定するとともに、地方財政や県機構についても規定した。また、3か月以内に地方税及び間接税に関する改正案を議会に提出すること、さらには地方の利益に関わる国家財産や公社財産を、地方自治体に移管することも定めた。

しかしながら、実際には、これら財政面や財産面での地方分権化は一向に進展せず、1992年の政府決定第113号で定められた国家財産のコミューン、町、県の公的・私的財産への移管も実施されなかった。また、1992年には政令第15号が出され、1994年には税金と関税に関する法律第27号が可決されたにもかかわらず、基礎自治体議会(コミューン議会、町議会)及び県議会における財政面での自治は実質的には実現されなかった。さらに、1991年には財政に関する法律第27号が採択され(後に1996年に法律第72号として修正された)、地方財政に関する章が設けられたにもかかわらず、地方予算に関する自治は達成されなかったのである(9)

 

(2) 現政権の地方行政改革

 

ところが、1996年11月選挙で政権交代が行われたことから、地方制度改革がにわかに軌道に乗り始めた。1996年選挙で勝利を収めたルーマニア民主連合(CDR)、民主党(PD)及びルーマニア民主ハンガリー同盟(UDMR)の連立政府は、地方自治制度を欧米並の水準に引き上げるべく法律改正に取組み始めたのである(10)。それは同政権の第一義的目標が欧米国際システムへの参加であり、なかでも欧米国際システムの中核的機構であるNATOとEUへの早期加盟が同政権の最重要目標に設定されているからに他ならない。ちなみに、前者はハード・セキューリティーの役割を担う集団安全保障機構であり、後者は通貨統合など経済発展機能のみならず、近年ではCFSP(共通外交安全保障政策)にみられるようなソフト・セキューリティー機構をも目指す欧州諸国からなる国際機構である。それゆえ、これら2つの機構に加盟できれば、欧米国際システムへの加盟を達成したことになり、第2次世界大戦直後のように、自らの意志に反して東方勢力圏に追いやられる危険性が払拭される。そういったことから、東欧諸国、なかんずくルーマニアはNATO及びEUへの加盟を第一義的目標に据えるのである。

しかしながら、これら2つの機構への加盟が認められるには、政治的民主化条件を含むいくつかの諸基準を満たさねばならない。そこから、現政府は政治的民主化の達成に不可欠な地方自治制度の整備に着手することとなった。政府発行の『EU加盟のための国家計画』第4部「地方行政改革プログラム」は、近代国家を創造するために、地方行政改革の促進、地方開発、公共財政システム改革、社会的対話と民族間対話の促進、市民組織の支援、市民及び地方自治体による公共政策の指導及び監督への参加を目標に掲げている(11)

 

 

 

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