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第1章 体制移行諸国における地方制度の構造と特徴

―3か年調査の総括―

 

1 はじめに

 

周知のように、1989年以降、それまで世界を二分してきた一方の勢力である社会主義陣営が急速に崩壊し、社会主義体制を採用していた旧ソ連及び東欧の諸国は、一斉に自由主義体制へと国家の基本制度の転換を行い、すでに10年が経過した。これらの体制移行諸国では、多数の基本制度の再構築のみならず、制度の基盤をなす体制の理念ないしイデオロギーの根本的な転換が行われたのである。この制度理念のレベルにおける転換は、これまでの制度が有してきた正統性を根本から問い直すことなった。このような基本制度の1つがそれらの国々における地方制度であり、当然、地方制度についても大幅な改革がすでに実施され、さらにはそれらの制度も幾度かの改正を余儀なくされてきた。

本調査研究では、これらの体制移行を行った旧ソ連及び東欧の旧社会主義諸国のうち、6か国(以下、調査順に、平成8年度がロシア連邦、ポーランド、平成9年度がハンガリー、ウクライナ、そして今年度がルーマニア、ブルガリア)における地方制度の改革の足跡を辿り、現在の地方制度及び地方自治の実態を明らかにしようとしたものである。

そこで、本章では、今年度を含めこれまでの3か年にわたる、本調査研究のまとめとして、地方制度の基本構造はいかなるものであるのか、また、地方行財政制度の特徴としてどのようなことがいえるのか、あるいは、体制移行諸国における制度改革の特徴とはいかなるものか、といった諸点を、重複する部分もあるが、概括的に述べることにしたい。もとより、一口に体制移行諸国といっても、その対象国は多い。したがって、ここでは、本調査研究で対象とした国に限定して論ずることにしたい。

 

2 国家目標と地方制度の性質

 

(1) 国家目標―国家統合と経済発展

 

今日では、一国の制度が、有効な統治と国民福祉の向上をめざして作られていることはいうまでもない。そのために、国内の多様な状況に応じて、さまざまな制度が工夫され、それらは状況の変化に応じて絶えず再構成されているのである。そのような制度のなかでも、国内各地の事情に応じて安定した社会システムを形成し、有効な行政サービスを供給するための制度、すなわち地方制度はとくに重要である。それは、地域の人々の生活に密接に関わっているという点において、また、多様な地域社会を統合して1つの国家として成り立たせるための基本的な制度であるという点において重要である。

 

 

 

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