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援助には、もちろん金銭的な援助もあるが、それ以上に、社会を安定・発展させ国民福祉を実現させるためのノウハウの伝授が必要とされている。特に、これまでややもすれば金銭的援助に偏る傾向があった我が国にとっては、こうしたノウハウの伝授のような援助を行うことは、いわゆる顔の見える国際貢献を模索していく上でも不可欠である。しかしながら、国民福祉実現のノウハウは、先進各国がそれぞれの土壌の中で育んできたものであり、これをそのまま体制移行諸国に移植しようとしても、本に竹を接ぐようなことになりかねない。実際に体制移行諸国の役に立つ援助を行うためには、自国の経験を活かしながらも、これら諸国の土壌に合うようにノウハウ自体をアレンジし、移植していくことが必要となる。そのためにも、これら諸国に関する基礎的な情報を収集し、その土壌を分析することが必要なのであり、そこに本調査研究の意義もある。

第2に、学術的な意義がある。体制移行諸国に関する社会科学的研究は、旧東側陣営の崩壊後、これまで閉ざされていた多くの情報源に接触できるようになり、近年、大いに進んできている。その研究は、マクロなレベルでの政治や経済の情勢・動向ないしは歴史に関する研究、あるいは家族や宗教などに関する社会学的ないしは民俗学的研究など、多岐にわたっている。しかしながら、これらの諸国がどのような地方制度で統治され、そこでどのような機関によっていかなる行政活動が行われているのかといった点になると、いまだに関心も乏しく、これまで十分な研究の蓄積が行われてこなかった。本調査研究には、こうした研究の隙間を埋めて、体制移行諸国をより多角的な視点から理解する上での一助となるという意義がある。

第3に、事例研究としての意義がある。近年わが国では、国の業務の軽減化が検討されている。その方向性として、市場に任せる規制緩和や、市民の自主的活動に任せ、これを支援するNPO法の制定などともに、地方公共団体に事務を任せる地方分権が進められようとしている。この地方分権のあり方を考えていく際に、体制移行諸国でどのような過程で新たな国と地方の役割を決定し、どのような地方制度を構築してきたか、そしてそれが実際にどのように機能しているのかを見ることは、参考になろう。我が国での制度改革の論議においては、これまで、国内で紹介される諸外国の制度の情報量に偏りがあったこともあって、英米の制度、あるいはせいぜい独仏や北欧諸国の制度ぐらいしか、参考の対象とされてこなかった。それらの国々の制度は、その変革過程が緩やかなケースが多い。一方、本調査研究において対象とした国々は、体制移行という、実際に制度の大幅な転換と急激な改革を経験している。その意味では、それらの国々の地方制度に関する調査研究は、我が国の今後の地方制度のあり方や大幅な制度改革にともない生じる諸問題を検討する上で、有益な情報を提供することだろう。

 

 

 

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