前節で述べたとおり、水質汚濁防止法成立当時東京都は国の規制値よりも厳しい排出基準を企業に課した。東京都内の鍍金業者はこの基準をクリヤーするために、他の自治体の鍍金業者よりも費用負担は増加したのである。このときリーケージは起きたであろうか。筆者が聞き取り調査した限りでは、そのような事実はほとんど認められなかった。鍍金業者は集団で排水処理工場を設立などして問題に対処し、都内を離れることはほとんどなかった。筆者の知っている例で排水基準の強化で東京を離れた業者は、都内で操業を続けたくても工場立地規制法の制約で排水施設が作れず、やむなく東京を離れたのであった。
なぜこうした規制強化があっても東京を離れなかったのであろうか。それは規制値をクリヤーするための公害防止投資をしても東京を離れないだけのメリットがあったからである。すなわち東京で操業することには、他の自治体では得られない経済的便益、レントが生じているのである。通常の利潤を越えてレントが生じているから、他の県へ流失しなかったのである。普通の言葉で言えば「地の利」ということである。地の利を帳消しにしないほどの費用ならば、企業は流失しないのである。
4 KILAモデルの意味するもの
KILAモデルとは
神奈川県自治総合研究センター(KILA)と筆者は、温暖化対策で自治体アクターが採りうる手法について共同研究を行った(神奈川県自治総合研究センター1995)。自治体アクターの積み上げ型施策の重要性を認識し、国家アクターとならんで自治体アクターの施策の可能性を追求したかったのである。
その想定ははっきり言って大胆である。現在の法律によって規定されている環境レジームに縛られることなく、自由な発想をもって施策の可能性を考えてみるというものである。従って、自治体アクターによる炭素税や排出権売買のシミュレーションがなされている。現在の法枠組のなかではそのような施策は不可能と言われるかも知れない。しかしいつまでも従来の枠組にとらわれていたのでは、新しい考え方は出てこない。