そんな雰囲気を持つ横田町で、国の伝統的工芸品の指定を受けている「雲州そろばん」も生れ育ったということになる。かつては全国生産量の70%に及んだが、電算機が普及するなかで需要は頭打ちとなっている。雲州そろばんは天保三年(1832)、仁多村の大工村上吉五郎が広島産のそろばんをみて、当地方に産する樫・欅やすす竹を用いてつくったのにはじまると伝え、それを当町の高橋常作や村上朝吉らが改良を加えた。とくに「ろくろ」を考案し、そろばんの生命である「珠(たま)」を精巧につくれるようになったことが、雲州そろばんの名声を高めた理由である。以後このそろばんは寺子屋や近代の学校教育にも取入れられることで普及し、その生産がのびたことはいうまでもない。町内にある「雲州そろばん伝統産業会館」にはおびただしい数のそろばんが展示されているし、隣接する「そろばん回廊」では実演により製作過程を身近に見学することができる。また「そろばんと工芸の館」には近代的な工作具によるそろばんや高級家具・調度品などの木工芸品の生産が行われ、それらが展示即売されている。