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1997年暮れにウィーン国立歌劇場で新演出された「リエンツィ」では、イングリッシュ・ナショナル・オペラで一時代を築き、わが国でも若杉弘指揮のBunkamuraオーチャードホールでの画期的な「蝶々夫人」の演出で馴染み深いデイヴィッド・パウントニーが演出に起用された。指揮はズービン・メータ、タイトルロールはジークフリート・イェルザレム。ウィーン国立歌劇場で「リエンツィ」が舞台上演されるのは1934年以来とのこと。やはり歴史的事情がからんでなかなか取り上げられなかったわけだが、今回の新演出上演に際して国立歌劇場のなかではナチス政権時代の「リエンツィ」上演のドキュメントが展示され、過去の歴史を直視したうえでそれを乗り越えていこうとする積極的な姿勢が窺えた。

そうしたお膳立てに呼応してパラントニーの挑発的な演出は、1961年生まれの国立歌劇場のバレエ監督のレナート・ザネッラのキッチュな振付を得て、「リエンツィ」を今日あえて上演する意味を痛烈な光で照らしだす。演出家自身の言によれば、舞台は近未来を想定しているとのことだが、「R」の字をあしらったおそろいのTシャツをきた後援者たちがリエンツィを讚える場面は、現代の選挙戦キャンペーンのパロディとなり、マスメディアを通じてお馴染みの現代世界の光と影を巧みに取り込んだ舞台が、説得力をもってわれわれ観客に迫ってくる。ポピュリスト政治家として描きだされるリエンツィの暗殺未遂には時限爆弾が使用されるといった具合だ。煽動者のデマゴギーに右往左往する大衆の姿はまさに今日的なテーマといえるだろう。

歴史の試練を経て、再び世界のオペラハウスのレパートリーとしてクローズ・アップされつつある「リエンツィ」が、現代の日本でどのような姿をあらわすか、興味をそそられるところである。

 

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「リエンツィ」の初演以来の大成功を伝える「絵入新聞」(ライプツィヒ、1843年8月12日)。挿絵は第4幕フイナーレの舞台画。

 

てらくらしょうたろう・オペラ批評

 

 

 

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