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広い視野で…。

 

鈴木正浩(国際医療福祉大学保健学部言語視覚障害学科3年)

今回、国際保健協力フィールドワークフェローシップ(国内研修)に参加して、多くの医学部の学生の方たちと接し、感じたことや刺激を受けたことなどが多々ありました。本当に得たものは大きかったと思っています。私は保健学部で学ぶ学生として、或いは患者さんにリハビリテーションを行っていく者としての視点で感じたこと、考えたことを述べてみたいと思います。

今回最も衝撃的だったのが、多磨全生園と高松宮記念ハンセン病資料館の見学でした。こみ上げてくる言い様のない切なさを抑えるのがやっとでした。医学の進歩によりハンセン病が終息に向かいつつある現在に於いてさえも、全国15ヵ所の療養所に約6千人の方が入所しているという現実。その現実は未だなお根強く残るハンセン病に対する差別・偏見によるところが大きいこと、そして、全生園のようなハンセン病患者さんを「隔離」するような施設がこの国には必要とされてきているということが、なんだか日本という国の根底に潜んでいるシステムの一部のように思えて、納得がいかないのと同時にとても寂しかったのを覚えています。これに似た状況がリハビリテーションの現場でも見られるように思います。例えば、肢体機能や高次機能に障害がある患者さんに対して、その人ができることまで周りの人間が無理だと勝手に判断したり、偏見を持ち可能性まで取り上げてしまったりなど。

『ある集団とそのメンバーに対する否定的態度がその保持者の心理的要求を満たすとき、その態度はステレオタイプ化されたものになり、疑いの余地のないものとなる。要するに強化された偏見となるのである。こういう偏見の保持者は、偏見を持たれている人々をスティグマ化し、強く拒絶し、彼らからできる限り社会的距離を保とうとする』。これはG. クロセティらがその著書の中で述べている言葉ですが、ハンセン病の場合に関しても、リハビリテーションの現場で見られるそうした現実に関してもまさに共通しているのはスティグマが形成されているということなのだと強く実感させられました。それが差別や偏見を生みだしているのだと…。

間違ったスティグマ、そして偏見が作られ続け、患者さんの人権が軽視され続けている現状があるというのは紛れもない事実なのでしょう。そんなことを考えていて、私は数年前から関心を寄せている薬害エイズ問題を思い出しました。この問題は国が殺人を犯したとも言えるような大きな問題ですが、HIV-positiveの方々のおかれた現状は密かに、しかし深刻なのです。彼らは数年から10数年に渡り侵害された人権の下での生活を送り、そして死を迎えるのです。95年3月に実名を公表したHIV-positiveの川田龍平さんはよく『「頑張って」と言われるより「頑張りましょう」と言われるほうが嬉しい』と言われます。薬害エイズ問題の勉強会に出席してこの言葉を彼の口から聞いたとき、はっとしたのを私は今でも忘れないようにと心掛けています。私はこのとき自分が龍平さんの言う「頑張って」の側に立っていることに気づかされました。自分からこの問題に関心を持ったものの、実際その問題の渦中にいる人々からは常にある一定の距離を保ち続けていこうとしていた自分にやっと気づいたのでした。私はただの傍観者にすぎませんでした。医療に携わっていこうとする者として、人間の個別属性に価値を置こうとするのではなく、その人の人間としての尊厳を重視しようとする姿勢が“ヒトを看る”という行為にも直接的に反映されるのではないかと考えさせられました。

 

 

 

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