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フィリピンを振り返って

 

高橋航(横浜市立大学医学部5年)

以前初めて「第3国」と言うところに行ったとき、「ここで自分は何が出来るのだろう」と考えたのがそもそもの始まりで、自分は今回のフィールドワークに応募しました。そうしたところで、医師と名のつく人たちはどんなことを実際にやっているのか、また医療の恩恵を社会に行き渡らせるためには、その周辺(要するにco-medical)の人たちはどんな事をしているのか、さらにはそこで日本人はどの様なかたちで貢献をしているのか、一人でふらふら出掛けただけではよほどネゴシエイションが備わっていないとみられないものが見られると言う意味で、今回のフィリピン行きはまたとない機会でありました。

参加するに当たって、自分は「その場その場で出会ったものを全て受け入れ、自分の感性でクリエイトしてみよう」という気持ちで望むことに決め、そのくびきとなりそうな本や荷物は全ておいて行くことにしました。自由時間は、自分のペースでいまおかれている場所の状況について考える機会と思い、なるべく現地の人とコミュニケーションを取ることにしました。

それにしても、まず思い知らされたのは自分の基本的なところからの知識の不足と、限られた時間の中で考え、それを表に出すことの能力に全く欠けていたという事でした。国内研修の最初の二日間は、講師の先生のお話を聞き、その内容をポイントだけでも押さえてみて、そこから問題解決の手がかりを見つけようとすることに終始しました。

その中で、自分に「ついていけるのだろうか」という不安と同時に問題を考える大きなヒントを与えてくれたのが、30名を越える参加者の皆さんと、指導者の先生方でした。偉大な為政者が出れば特定の疾患に対する差別が解決されるのだろうかという疑問に対する、現実の社会の中で指導者の立場に立つ人が特異な考えを持てば持つほど、それに振り回されて社会が前に進まないと言う行政における現実や、ゴム手袋をオートクレーヴで滅菌して再利用するのはどうかという疑問に対する、20年前まではみんなそれが普通だったという歴史などは、正に自分の想像を越えた、自分にとっては全く新鮮なものの考え方でありました。

そんなこんなで11日間はあっという間に過ぎていきましたが、その中で自分が一つはっとさせられたのは、比国保健省(DOH)のロペス先生の言葉でした。「我々は援助して貰っているのは事実だが、逆に日本に教えて挙げられることもある。」国際協力というものを、相手のためにしてあげているという思い上がった概念でとらえていたことに自分は気づき、また、普段の臨床実習で何となく理解していた「患者さんに私たちは日々教わっている」という言葉をここではっきり思い出し、再確認させられました。

そこから、それまでに見てきたことを考え直してみると、一つ大きな疑問が上昇してきました。一つ一つのプロジェクトを慈善でなく、ビジネスとしてとらえてみたとき、必ず考えなくてはならないのがその投資効果です。昔日本のお金で作ったけれどもいまは使われていない港湾施設などは、それがODAの草創期であったと言えばいいわけが通るのでしょうが、そこからそろそろ20年も経とうかという今になってもまだ、効果を測る指標すらはっきり出来ていないと言うのはどう言ったことなのでしょうか。統計資料というものはいわゆる発展途上国には整備する余力がない、と言うことは今回の参加を通じて分かってきましたが、評価をしない限りそれがお金の垂れ流しと言われても仕方がない気がします。その辺を含めて、医療活動の評価という点についてもう少し勉強をすべく、公衆衛生の教室で資料を蒐集しているというのが現在の自分であります。

6年生の1学期になって、近未来の自分の活動はどうするのか、と言うことを良く聞かれるようになりましたが、今回フェローシップに参加して感じたのは、国際保健に興味があると言っても、卒業してからすぐに飛び込む必要もないのではと言うことでした。医学部を出たと言うだけでは臨床の世界では何の役にも立たないと言うのと同じで、何処へ行ってもいつかは肩書きだけでなく、specialityを要求されるのは当たり前と言うことを痛感しました。そういう意味ではもう少しゆったり構えてもいいから、いつの日かこの世界に飛び込んでみよう、と決意を新たにした次第であります。自分の国際保健へのアプローチはまだ始まったばかりですから、これをもう少しかたちにしてみてからでも遅くはないかなと、思いを馳せている現在であります。

最後になりましたが、かけがえのない体験をさせてくださった今回のプログラムに、感謝の意を述べたいと思います。

 

 

 

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