たもので,組織学的に軽度の内膜増殖症であった症例を経験した。12症例の子宮内膜炎のうち5症例において,内膜を示す線状の高輝度エコーは,ところどころで断裂し(図8右),治療が奏功したあと5症例中4症例にその連続性を回復した(図8左)。
IV 考察
カットオフ値をどのように設定するかによって,診断の精度は著しく影響を蒙る。文献上,閉経前の患者では10〜16mm,閉経後の患者では5〜8 mmの報告がある2)3)4)。著者によってカットオフ値に差があるが,われわれの成績では,それぞれ,11mm,6mmであった(表3および4)。本研究では,閉経前の患者の子宮内膜厚は2〜30mmの範囲で,Dijkhuizenら3)の成績1〜30mmと,また,閉経後の患者については3.5±2.3mmで,Zaludら6)の3.1±1.7mmとほぼ同様な結果を得た。子宮内膜異常の診断の精度が最も高くなるようにカットオフ値を選ぶと,表3および4に示すように,閉経前の患者では11mm(mean+1/2 SDに相当),閉経後の患者では6mm(mean十1SDに相当)であった。カットオフ値が著者間で差があるのは2)3)4)、著者間の症例の相違と関係しているように思われる。たとえば,子宮内膜増殖症について,われわれの結果によるとその内膜厚が5〜52mmであるのに対して,Dijkhuizenら3)の成績では5〜15mmであった。したがって,内膜厚の正常値あるいは異常値の決定は容易ではないようである。そのカットオフ値を11mmに選んだとき,閉経前の患者では,内膜異常の診断の精度は非常に高いことがわかった(sensitivity 0.94,specificity 0.90)(表3)。
しかし,子宮内膜厚の計測による閉経前の患者の子宮内膜増殖症の診断について,そのカットオフ値を11mmに選んで,その診断の精度について検討すると,sensitivity 0.94,specificity 0.54,positive predictive value 0.54,negative predictive value 0.96,negative likelihood ratio 0.12であることより,本法が,子宮内膜増殖症はじめ子宮内膜の肥厚が認められる子宮筋腫,ポリープ,子宮体癌,arias-stellareactionなどの異常のスクリーニングにはすぐれた方法であるが,それらの鑑別には限界があることを示している。つまり,通常の超音波検査上,内膜異常間に特異性が乏しいことを示唆している。子宮体癌,arias-stella reactionについては,症例数が少ないことから,詳細な検討を控えたが,子宮内膜増殖症はじめ子宮内膜の肥厚が認められる子宮筋腫,ポリープとの鑑別が問題になる可能性がある。一方,TVHSによれば,子宮腔内に突出する腫瘤状エコー(図3,4,5)の有無を指標とすることによってその鑑別は容易で,子宮内膜増殖症は,限局性に増殖してポリープ状を呈した一例を除き(図6),子宮腔内に突出する腫瘤状エコーを描出しなかった(sensitivity 0.94,specificity 1.00,positive predictive value 1.00,negative predictive value 0.96)。
本症は,また,20.9±11.5mmとその内膜肥厚が著明で,不均一な発育を示し,その表面は不整であった(図7)。しかし,内膜厚がわずかに5mmで組織学的に軽度の子宮内膜増殖症を示した症例,またポリープ状を呈することもあり(図6),その診断には慎重でなければならないことは言うまでもない。
一方,本法は,内膜ポリープと3cmより小さい粘膜下筋腫の鑑別は,両者がそれぞれ類似した所見を有することにより著しく困難であった。およそ3cm以上の筋腫では,筋腫に特徴的といわれる低エコー域を示す充実性腫瘍,高輝度の内膜エコーが腫瘍によって断裂することなどによって8)診断は比較的容易であるが,このような所見の描出が3cmより小さい粘膜下筋腫では困難であった。内膜ポリープについて,Dubinskyら9)の報告によればhomogenousで,内膜エコーを断裂することはないとしており,Kupferら9)は境界明瞭な腫瘍で均一の高輝度エコーを示すとし,Cicinnelliら10)は,無エコー域を呈すると報告しているが,本研究では,境界明瞭,高輝度の腫瘤で,内膜エコーの断裂をともなわず(図3),粘膜下筋腫と酷似した所見であった(表5)。
また,腫瘤状エコー(図3,4,5)の位置,大きさ,内膜増殖症(図6,7)の位置,程度をかなり正確に描出することが可能であることから,生検を行ううえで本法が非常に有用であることもわかった。子宮内膜炎は,ときに内膜を示す高輝度の線状エコーがところどころで断裂する所見がみられた(図8右)。これは炎症にともなう壊死,滲出液の存在などを反映していると考えられる。一方,この所見は治療が奏功すると改善し,その連続性を回復する症例が5症例中4症例にみられたことから(図8左),その経過観察,本症の治療効果の判定の指標になり得ることが示唆された。閉経後の患者については,結論を導