片頭痛の誘因としては,高率のものから,精神的ストレス,肩こり,生活や職場などの環境の変化,睡眠不足,疲れを感じたときの順であった。一方,緊張型頭痛では,同様に上位から,精神的ストレス,肩こり,睡眠不足,環境の変化,疲れを感じたときの順で,片頭痛と大きく異なる特徴的な誘因は認められなかった。
3] 農漁村地域別にみた各頭痛の型の割合(図7)
赤碕町は南北に広く伸びた地域であり,北は日本海に面し,南は中国山地に属している。北部は漁業地域で,南部は農業地域である。町内をこの2地域に分け,それぞれの地域における各頭痛型の出現する割合を対比したところ,有意な差が認められた(x2検定:p<0.01)。漁業地域(全頭痛患者382例)では,農業地域(192例)に比べ,緊張型頭痛の占める割合が高く,血管障害によるものが低い傾向にあった。
IV 考察
地域を対象にした頭痛の疫学調査は本邦では極めて少ない。その中では鳥取県大山町で行われた研究が広く知られている1,4)。今回の赤碕町の研究も,その大山町研究のアンケートと同じものを用いており,本稿の考察は,大山町の結果とも対比しながらすすめたい。
頭痛はありふれた身近な自覚症状であり,ゆえに,頭痛の有病率は高く,大山町では約12%,一方,このたび調査した赤碕町では約18%と高率であった。頭痛を持つものの男女比については両町で大差がなかった。このように調査方法が同じでも有病率に若干の差が生じており,赤碕町における,遺伝的な集積や頭痛を起こし得る生活習慣の存在も考慮する必要があると考えられた。
国際分類による頭痛の各型の割合は,大山町でも赤碕町でもほぼ同様で,緊張型が半数,片頭痛が1/4,血管障害・外傷・耳鼻科や眼科疾患などによる症候性のものが1/5程度を占めていた。
片頭痛には,本邦でも地域差が明らかになってきている3,6)。それによると,近畿・北陸地方は有病率が5.8%と,他地域(9.5%)に比べ有意に低いという。今回赤碕町でのそれは5%強であり,大山町では3.5%に過ぎなかった1)。一般に,片頭痛の有病率は3〜8%程度と推定されている1)が,山陰地方にも有病率の低い地域が存在する可能性はある。
片頭痛は,若年に多いが,年齢分布に特徴を有することが観察されている4)。前兆のある型では,大山町では男女とも80歳代をピークに年齢とともに減少している。赤碕町の結果では,女性はそれに近い傾向を示すが,男性は明らかな2峰性の年齢分布を示し特徴的であった。他方,前兆のない型では,両町とも女性については前兆のある型と同様であった。しかし,男性は10歳代にやや多く,20歳代で一時減少し,30〜50歳代で再度増加するという分布を両町とも示した。いずれにせよ,片頭痛を有する男性は2峰性の年齢分布となる可能性を指摘したい。
緊張型頭痛の有病率は,大山町で6.2%,赤碕町では9.1%であった。緊張型については,有病率が高く,女性に多くみられ,男女とも中年以後に多いという年齢分布を呈することなど,これまでの知見と一致していた1,4)。
季節の影響では,片頭痛,緊張型頭痛とも春に起きやすいとする回答が最多であった。これらは既報と同様であった4)。
また,家族歴の影響では,片頭痛,緊張型頭痛とも半数弱に母系の家族歴を認めた。片頭痛のみならず,緊張型頭痛においても何らかの素因の存在はうかがえる4)。
発作の誘因については,両町の調査とも片頭痛・緊張型頭痛において,上位に選ばれる項目に大差は認めなかった。しかし,大山町と赤碕町では,その回答率・順位が異なっていた。具体的には,片頭痛において,大山町に比べ,赤碕町では肩こりを挙げるものが多いのが特徴で,精神的ストレスや疲労感も多く,逆に,睡眠不足は少なかった。一方,緊張型頭痛では,赤碕町では精神的ストレスが最多だったが,大山町ではこれを挙げるものは少なかった4)。このような差を示す誘因に対する報告は,特に,緊張型頭痛においてはこれまであまりなく4)、今後の検討の蓄積も必要と考える。
頭痛の型が,漁業地域と農村地域で異なることが示されたのは興味深い。漁業地域では,農業地域に比べ緊張型頭痛の占める割合が高く,血管障害によるものが低い傾向にあった。遺伝要因,食習慣などの生活習慣の違い,性・年齢構成の違いなどが原因として想定されるな今回の検討では主因は即断できず,今後の地域の課題としたい。