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の細胞と巨大細胞はα1-抗トリプシン(図1,b)とα1-抗キモトリプシン抗体で陽性に染色された。これらのことから,花むしろ状一多形性の悪性線維性組織球腫の診断を行った。

切除した胃は,ボーマンIII型腫瘍を示しており,大きさは3.5×3cmであり,胃前庭部に存在していた(図2,a)。組織学的には,中等度に分化した腺癌(図2,b)が,漿膜下層組織まで深達していた。リンパ節の関与は認められなかった。

 

症例2

切除した検体は,8×8×5cmの卵形の黄色の腫瘤であり,境界はかなり明確であり,断面には広汎な出血と壊死が認められた。腫瘍はS字結腸の粘膜部と膀胱の外膜層まで深達していた。組織学的には,腫瘍は,大きな多形性の多角形の細胞で好酸性の細胞質を有しており,一部は多核細胞であった(図3,a)。泡沫状あるいは顆粒状の細胞質を持った腫瘍細胞も同定された(図3,b)。腫瘍細胞も巨大細胞もスダンブラックB染色(図3,c),スダンIII染色ならずにオイル赤O染色に陽性であった。免疫組織化学的には,単核腫瘍細胞も多核腫瘍細胞も,ビメチン(図3,d)とS100に対して陽性であったが,サイトケラチン,デスミンならびにアクチンに対しては陰性であった。これらの知見に基づいて,多形性脂肪肉腫の診断を下した。

 

症例3

20×14×10cmの大きさの黄色の腫瘍は比較的境界が明確であり,出血と壊死が広汎に認められた。腫瘍は直腸の筋層,膀胱ならびに子宮壁まで及んでいた。組織学的には,この腫瘍は2つのコンポーネントから構成されていた。つまり,粘液様の部分と充実部分である。粘液様の領域では,ほとんどの腫瘍細胞は細胞質が泡状の外見をしており,そのうちの一部は印環細胞に似ていた(図4,a)。叢状のネットワークには毛細血管が豊富に認められたことが特徴的であった。充実部分では,主要な特徴は,小胞性の核を持ち,細胞質の少ない小さな,均一な形状の丸い細胞が増殖していることであった(図4,b)。血管網は粘液様の部分と比較してまばらであった。丸い細胞の脂肪肉腫を成分として有する粘液様脂肪肉腫の診断を下した。

 

p53タンパク質の免疫組織化学的染色

症例1の悪性線維性組織球腫と胃癌ならずに症例2の脂肪肉腫ではp53タンパク質染色は陰性であったが,症例3の脂肪肉腫では陽性であった。症例3でのp53タンパク質染色の染色は,粘液様の領域(図4,c)ならずに充実領域(図4,d)の両方とも腫瘍細胞の核が最も強い陽性を示した。

 

p53遺伝子突然変異のスクリーニング

p53遺伝子の第4エキソンから第9エキソンの塩基配列決定を実施して,患者1(発端者)から採取したゲノムDNAに突然変異がないか調べた。3回,配列決定を実施した中で,これらの領域ではいずれも遺伝子の変化は認められなかった。

 

コメント

 

Li and Fraumeni9)が,最初に,軟部組織肉腫,乳癌その他の悪性新生物の(家族内)集積について記述し,家族性症候群の一つであると提案して以来,多くの症例がこれまでに英語の文献に報告されている10)11)17)-23)。1988年にLi et a120)の行ったLFSの定義が広く受け入れられており,この定義を満たす家系は,古典的LFSを有するとされてきた10)。一部の著者らは,もとの定義は厳格に満たさなく,より広い基準を満たした同様の家系も含めている。例えばBirch et al19)はLFS様の症候群の9家族を以下の基準にしたがって記述している:何らかの小児癌あるいは肉腫,脳腫瘍,副腎皮質癌に罹患し,45歳までに診断が下された発端者,1例の一親等もしくは二親等の家族が,(45歳ではなく)60歳以前に癌の診断がなされたもの。本報告に示した家族は,最初の定義も,より広い定義も満たさないが,発端者(患者1)の(実際の)発病年齢が見過ごされていたのであれば,LFS様の症候群を有していると考えることができる。

p53遺伝子の突然変異の大多数が同定されている第4エキソンから第9エキソンまでの範囲21)-17)には,germline突然変異は存在していなかった。他のエキソンに突然変異があった可能性がある。LFSにおけるp53遺伝子のgermline突然変異は,症例の半数に認められると言われている。免疫組織化学的には,この家族に認められた4腫の腫瘍の中の脂肪肉腫1例だけに,p53タンパク質染色の陽性が認めら

 

 

 

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