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安価なコンピューターネットワーク形成による病診連携の試み

 

―暗号化による患者情報共有―

 

愛媛県・宇和島市国民健康保険遊子診療所 中島 隆

愛媛県・市立宇和島病院 麻酔科 新田賢治

愛媛県・正光会宇和島病院 鎌田良知

 

要旨

 

僻地診療所において,今後重要な課題である病診連携の推進について,最近進んできたインターネットを利用し,NTTのISDN回線によるコンピューターネットワーク形成と,患者情報の安全な交換を目指して研究した。安価な汎用機(PC/AT互換機,いわゆるDOS/V機と呼ばれる近年多く使用されているWindows95,98用のパーソナルコンピューター)と,フリーソフト(作成者が自由に使用することを許可しているプログラム)の利用により,費用は少なく,個人レベルで揃えることが可能な機器で,維持費も廉価なネットワーク形成を行えた。また,近年普及しつつある暗号化技術を利用して,病診連携に不可欠の患者情報を,生のデータも含み,安全で,確実に,迅速に交換できることを実証した。そして,ネットワーク形成により,病診間の信頼関係もまた,良好な結果が得られたので報告する。

 

I 諸言

 

地域医療,特に僻地での医療に携わる医師にとってもっとも切実な問題は,対象疾患の広さと,そして自己の研修不足,情報不足に対する不安ではないだろうか。そこで,赴任以来の後方支援病院である市立宇和島病院のネットワーク化に際して,公衆回線経由でネットの一部として参加したのがこの研究の始まりであった。初期には,データバンク事業で設置されたパーソナルコンピューターを使用し,徐々に筆者個人の知的好奇心,研究心とともに,個人的に装備を充実させて来た。

 

II 概要

 

遊子診療所は愛媛県南部の宇和島市にあり,その中心部より約20km,草で30分の距離にある,半農半漁の地域である。

対象人口は約2,000人,出張診療所の下波診療所の対象人口1,000人と合わせて,約3,000人の対象人口の無床診療所である。そのため,市中心部の病院への受診も多く,病診連携の必要性も高く,僻地診療所に対しても,求められる医療の質は高いとも言える土地柄である。

宇和島市の中心部に位置する市立宇和島病院は,愛媛県南子地区の救急救命センターも兼ね,またオープン病床も持ち,国保診療所勤務医師は,オープン登録医として研修,診療が可能である。また,院内にはオーダリングシステム導入前よりLAN(local area network)が張り巡らされ,医師,その他の職員は,自由に院内のネットワーク,インターネットで文献検索,情報配布などがなされている。

 

III 方法

 

初期) 1996.9-

一般電話アナログ回線を通して,アナログモデムによる接続であった。国のデータバンク事業で設置された,NEC製のPC9821AP2(486DX2CPU)とAIWA製 PV-AF144V5(1440bps)によって,Microsoft社製のWindows95を使用して,ppp接続と呼ばれるTCP-IP利用による接続をした。この際は,アナログ回線のため接続に(ネゴシエーションと呼ばれる)10数秒の時間がかかり,かつアナログのため速度が遅く,データの転送に支障がでることがたまにある状態であった。この時期には電子メールの配送,DSU(drug Safty update),市立宇和島病院内の情報等を得ることが主であった。この時期はまだ,パーソナルコンピューターも一台のみで,オペレーティングシステム(OS)もWindows95のみであった。

 

 

 

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