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鄭ら10)によると,患者の労作をできるだけ避けるようにして,半坐位用浴槽にて41℃で10分間入浴させた場合の酸素摂取率は,わずか0.3Metz以下の増加であったとしている。また41℃の温水は皮膚への刺激が少なく,これより高いと皮膚刺激による血圧上昇を招くし,これより低いと温熱効果は弱くなるとも述べている。したがって,温浴による血管拡張と後負荷軽減による心臓負担を最小限にするためには,本検討で採用した中温浴が最適であり,かつ労作を少なくする入浴法が適当であろう。

最後に,血漿レニン活性の入浴前後における上昇であるが,小澤ら11)は,心筋梗塞患者を対象として42℃温浴5分にて血漿レニン活性、アルドステロン値は温浴前に比して温浴5分後,出浴15分後に経時的に有意に低下したとしている。本検討では血楽レニン活性は上昇しており,入浴に伴う交感神経刺激作用と考えられる小澤らと異なる結果を示した理由については,設定温度,対象疾患,年齢等の違いが関与したものと考えられる。

以上,寝たきり患者について,人体に最も負担の少ないとされている中温浴による血圧への影響を検討したが,入浴に伴う一過性の血圧上昇と,その後24時間にわたる降下効果がみられ,脳血管障害への影響を考慮する上で注意すべきことと考えられた。また,さらに24時間以後の影響についても今後検討が必要であろう。

 

謝辞

 

本研究の実施にあたり,ご協力頂いた町立野村病院内科病棟および老人保健施設つくし苑の看護婦ならびに介護職員の皆様に深謝いたします。

本論文は,日本老年医学会雑誌第35巻第4号に掲載されたものである。

 

文献

 

1) Norusis MJ. SPSS. Chicago:SPSS;1994.

2) 藤田良範,戸沢和夫:心疾患患者の温浴の影響,総合リハ 20:39-141,1992.

3) 宮尾益理子,桑島 厳,宇野彩子,他:寝たきり老年者の血圧に対する入浴効果の検討,日老医誌 31:849-852,1994.

4) 日吉俊紀:温熱療法と循環器疾患,日本医事新報 3830:105,1997.

5) 小嶋碩夫,布施正美:草津温泉における死亡の季節変動と気温との関係,日温気物医誌 41:57-66,1978.

6) 大平敏樹,宮下剛彦,今井龍幸,他:温泉旅行者の内科緊急入院の実態,日温気物医誌 52:181-186,1989.

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9) 久保田一雄,田村耕成,倉林均,他:草津温泉裕の血圧,心拍数,血漿コーチゾル並びにヘマトクリットに及ぼす影響,日温気物医誌60:61-68,1997.

10) 鄭 忠和,堀切 豊,朴 鐘春,他:慢性心不全患者に対する新しい治療法―温浴による血管拡張療法―,Therapeutic Researc 12:1256-1263,1991.

11) 小澤優樹,安藤浩巳,長山雅俊,他:心筋梗塞患者における温浴時の心房性ナトリウム利尿ペプチドの変化―観血的血行動態との対比(第一報)―,循環器科 28:151-160,1990.

(町立野村病院 〒797-1212 愛媛県東宇和郡野村町大字野村9-53)

 

 

 

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