寝たきり患者の血圧に及ぼす温浴効果の検討
愛媛県・町立野村病院内科
川本 龍一・岡本 憲省
山田 明弘・小国 孝
要旨
安定した寝たきり患者に対する入浴の効果を検討するために,町立野村病院内科入院中の寝たきり患者10名(男性5名,女性5名,年齢78.9±10.5歳)を対象に入浴前後の血圧,脈拍,内分泌環境,さらに出浴後24時間の血圧と脈拍について検討した。その結果,血圧は入浴により一過性に上昇し,出浴後は急速に低下した。その後の24時間効果については入浴日は非入浴日と比べると,収縮期血圧では12〜16時間(p<0.005)で有意に低く,拡張期血圧でも同様に8〜12時間(p<0.01),12〜16時間(p<0.001),20〜24時間(p<0.001)で有意に低かった。脈拍については入浴後0〜4時間で有意に高かったが(p<0.01),8〜12時間(p<0.001)と12〜16時間(p<0.001)では有意に低かった。また入浴前後で血漿レニン活性の有意な上昇を認めた(p<0.05)。以上,入浴により交感神経刺激を介して一過性に血圧は上昇するものの出浴後は急速に低下し,その効果は数時間にわたり持続することが示唆された。
Key words:入浴,寝たきり患者,血圧,脈拍
I 諸言
老人人口の増加や長寿化が進むなか,脳血管障害等を機会に寝たきりとなる人が急速に増えつつある。近年,老人保健施設や訪問看護ステーションでは,そのような人が元気な時と同様な習慣に出来るだけ近づけるよう支援サービスが計られ,こうしたなか,非常に風呂好きである日本人にとって入浴サービスは最も楽しみなものであり,患者に喜ばれる支援のひとつとなっている。一方,対象者の多くは何らかの基礎疾患を有しており,その温熱効果に伴う血管拡張や発汗作用による心肺系への影響が懸念される。
そこでわれわれは,寝たきり患者に対する入浴の効果を検討するために,安定した寝たきり患者を対象として,その血圧と内分泌環境に及ぼす影響に関して検討を行ったので報告する。
II 方法
対象は,町立野村病院内科入院中の寝たきり患者10名,男性5名,女性5名,年齢は78.9±10.5歳であり,その基礎疾患は病状の安定した脳梗塞9名,脳出血1名である。明らかな虚血性心疾患,心不全を有する者は含まれていない。
入浴方法では,当院での日常の方法に合わせて開始時間は午前11:00とし,看護婦による全介助にてリフトを用いて行われた。浴室入室前に自動血圧計Listmini(LOLIN社)を装着し,浴室入室後臥位の状態で,数人の看護婦により39〜40℃の温湯シャワーにて洗髪・洗体後,リフトによって39〜40℃に調節した浴槽内に頭部・顔面以外は水面下になるよう2分間入浴させた。出浴後は再び洗剤とシャワーにて洗髪・洗体を実施し,その後リフトにより再び浴槽内に2分間入浴させ終了とした。血圧および脈拍はオシロメトリック法にて入浴10分前から出浴後8分まで2分毎に測定した。また,入浴前後の血中カテコラミン(エピネフリン,ノルエピネフリン,ドパミン),血漿レニン活性,ヘマトクリット,フィブリノゲンを測定するために,入浴前20分と出浴後20分後に採血を行った。血中カテコーラミンはHPLC法,血漿レニン活性はRIA法により測定した。