日本財団 図書館


14/85±14mmHgへ,拡張期血圧のみ有意に下降した(p<.05)。同様に,夜間の収縮期および拡張期血圧の平均値は,155±11/81±8mmHgから153±8/83±12mmHgへといずれも有意差を認めなかった。一方,脈拍数はいずれも変化しなかった。

D. QOLスコアの変化

QOLスコアの変化を図4に示す。総合(全項目の平均値)は観察期と比験して有意な改善が認められた(p<.0001)。大項目別に検討すると,QOLスコアの平均値が有意を改善を認めたものは,一般症状,情緒状況,社会的関心の各項目(p<.0001)と,全身症状(p<.01)と,睡眠尺度(p<.05)であった。仕事の実行と満足感,知的機能,性的機能,生活満足感,自己調節,活力の各項目は,有意な変化を認めなかった。どの項目も有意な悪化を認めたものはなかった。

IV 考察

非薬物療法としての生活習慣の軌道修正は,高血圧治療の補助療法であると同時に主要な治療と考えられている。一般に,生活習慣改善指導のコンプライアンスは悪く,この非薬物療法が心血管事故のリスクを軽減するという直接的な証明はない。しかし,薬物治療の前に非薬物療法を先行させることが望ましいと,JNC-VI報告6)でも強調されている。JNC-VIでは,lifestyle modificationとして適正体重の維持,禁煙,節酒,塩分制限,運動療法,カリウム,カルシウム,マグネシウムなどの適正な摂取などを挙げているが,いずれにしても以上の生活習慣の改善は長期継続が必要で,その維持はしばしば困難であることが多い。特に高齢者では合併する整形外科的疾患等により,運動能力が限られたり,極端な減塩が活力をそぐ結果にもなるため,個々の身体活動能力に合わせた指導が必要である。今回我々は,最近国内で急速に普及しつつあるデイケアを利用した老年者高血圧患者に対する生活習慣改善が血圧・QOLへ及ぼす影響を検討し,デイケアが老年者高血圧患者の緩徐な降圧をきたし,また,良好なQOL改善をもたらすことが明らかとなった。

一般に,一種類のlifestyle modificationではなかなか降圧コントロールが得られにくいが、数種類の方法を組み合わせれば相乗効果が得られることが報告されている。軽症高血圧患者の治療効果を調べたTOMHS(Treatment of Mild Hypertension Study)11)では,効果的に非薬物療法を薬物療法と組み合わせることによって,非薬物療法のみの場合よりも,降圧コントロールや心血管イベントの予防に有益な結果をもたらすことが報告されている。しかし,体重減量指導により始めの6ヵ月で体重は約5kg減少した方、その4年後には効果が半減し,減塩指導についても最初の1年目の効果が4年後には約3割まで低下したとあり,非薬物療法のコンプライアンスの低さが問題である。その点今回我々が施行したデイケアプログラムによる指導管理は,デイケアそのものが高齢者の生活習慣改善につながり,継続的な降圧効果につながる可能性があるものと思われる。特に老年者高血圧患者の場合,薬物療法による過度の降圧は好ましくなく,緩やかにゆっくりと降圧をはかるべきであるとされており,この点からもデイケアの有用性が明らかである。

近年,高血圧患者に対してQOLの向上を目指した治療が注目され始め,Croog7),Testa8)らは薬物療法におけるQOLの改善効果を報告している。国内では,荻原ら10)が軽症ないし中等症の本態性高血圧症例で,QOLに及ぼす影響をCa拮抗薬(塩酸バルニジピン)とACE阻害薬において検討し,塩酸バルニジピンのより高いQOL改善効果を報告している。しかし,非薬物療法による血圧・QOLへ及ぼす影響を検討した報告は今までにない。荻原らは、独自に開発した質問表を用いて老年者高血圧患者のQOLの評価をおこなったが,このたび我々も同じ質問表を使って非薬物療法によるQOL評価を試みた。その結果,一般症状,情緒状況,社会的関心,全身症状,睡眠尺度において改善が見られ,またその改善度は荻原らが報告した薬物療法による改善度よりも良好であった。

心理学的因子が血圧に影響を及ぼすかもしれないことはかなり以前から言われていたが,リラックス法やバイオフィードバック法その他の心理的介入などの行動医学的治療が老年者高血圧患者に及ぼす効果を検討した研究はほとんどない。今回の我々の検討より,老年者高血圧患者のQOLの改善が降圧につながったものと考えられるが,一般に,非薬物療法としての行動医学的治療は若年あるいは中年高血圧患者に対しては効果に疑問が持たれている。しかし,老年者高血圧患者は,若年あるいは中年高血圧

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION