II 対象と方法
A. 対象
1995年8月から1997年7月までに当デイケア施設を利用した65歳以上88歳以下の男女で,過去2カ月間降圧剤の投与を受けておらず,観察期の血圧が収縮期血圧159〜219mmHgで,重篤な合併症のない本態性高血圧患者525人を対象とした。ただし,下記に該当する疾患または要因を有するものは対象から除外した。
1]重篤な下記疾患を合併する患者,心疾患,脳血管障害,腎障害,肝障害,精神障害,悪性腫瘍など。
2]定期的な通院が困難なため本試験に不適当とした患者。
B. 試験方法
少なくとも4週間の観察期の後,最終的に409人の患者(65歳以上88歳以下,平均77歳)を以下の3群に無作為に割り付けた。1)生活習慣改善教育グループ(コントロールグループ)2)デイケアによるlifestyle modification実行グループ(デイケアグループ)3)降圧剤による血圧管理グループ(降圧剤治療グループ)とした。
コントロールグループは,外来にて担当主治医によりJNC-VI報告で推奨されている生活習慣の改善(過体重の減量・適正化,アルコール摂取の制限,定期的な有酸素運動,食事指導)を行うよう教育指導が実施されたが,以下に述べるデイケアプログラムの対象からは除外された。デイケアグループは,教育指導のみならずデイケア施設にて少なくとも週2回以上のデイケアプログラムを,医師や理学療法士,作業療法士らにより行った。施設への来院は送迎バスにて行い,1回につき4〜6時間の理学療法,作業療法やストレス管理療法を施行した。個別的な治療が必要な患者に対しては常勤の理学療法士が,ホットパック,パラフィン浴,超音波刺激療法,赤外線治療,電気刺激療法などを計画的に行った。ストレス管理療法としては,ジェットバス,露天風呂,カラオケルームなどを利用し,患者のストレス軽減を計った。これらの設備は,デイケアグループの患者に対して自由に使えるよう解放した。降圧剤治療グループは,教育指導および薬物治療の併用が施行された。降圧剤は,まずアムロジピンを投与して経過を観察し,適当な降圧が得られない場合は必要に応じてACE阻害薬または利尿剤を追加,増量した。アムロジピンは5mg/日から開始し,必要に応じて10mg/日まで増量した。エナラプリルも5mg/日から開始し,必要に応じて10mg/日まで追加した。サイアザイドは2mg/日から開始し,必要に応じて4mg/日まで追加した。降圧目標は,観察期の収縮期血圧より少なくとも15mmHg程度の降圧とした。
C. 検査項目
1.血圧および脈拍数
患者全員に対して,来院日ごとに自動血圧計(日本コーリン,BP103i II)を用いて,5分間以上安静後,座位にて血圧および脈拍数を測定した。また,デイケアグループからランダムに19人を選び,観察期の終了時と6カ月後に携帯型血圧自動測定装置(日本コーリン,ABP-90207)にて24時間血圧を測定した。測定は,午前6時30分〜午後10時30分までは30分ごとに,午後11時〜午前6時までは1時間ごとに行った。なお,測定日は通常の生活パターンの日を選び,入浴,過激な行動,午睡,アルコール摂取等を避けるように指導した。24時間血圧測定を施行した患者は,観察期の測定データをもとにして昼間覚醒時の平均血圧の10%以上下降するものをdipper型,10%未満をnon-dipper型と2群に分けて血圧日内変動の変化を検討した。
2. QOL
デイケアグループの患者に対して,観察期の終了時と6カ月後に既報のQOL調査票10)を使用し,質問をおこなった。QOLの評価項目は35項目(小項目)からなり,それを一般症状(9項目),全身症状(4項目),仕事の実行と満足感(3項目),睡眠尺度(4項目),情緒状況(4項目),知的機能(2項目),性的機能(3項目),社会的関心(1項目),生活満足感(2項目),自己調節(2項目),活力(1項目)の11項目(大項目)に分類した。各質問の回答は3段階評価とした。
3. 臨床検査
観察期の終了時と6カ月後または中止時に臨床検査(赤血球数,白血球数,ヘモグロビン,血小板数,GOT,GPT,LDH,血清クレアチニン,Na,K,尿酸,総コレステロール)を実施した。
D. 評価
1. 血圧の推移
試験期間中の3群間の血圧の変化を比較検討した。また,デイケアグループの血圧日内変動は,dipper型,non-dipper型と2群に分けてそれぞれデイケアによる変化を比較検討した。