デイケアによる老年者高血圧患者の血圧・QOL改善効果
島根県・島根医科大学環境保健医学第一
金 博哲・多田 學
島根県・島根医科大学第四内科
石橋 豊・島田 俊夫・高畠 利一
島根県・宍道町国保来待診療所
月橋 啓典
要旨
【目的】デイケアによる老年者高血圧患者の血圧・QOL改善効果を検討した。【方法】対象は収縮期血圧159〜219mmHgの老年者高血圧患者409例。コントロール群138例,デイケア群136例,降圧剤治療群140例に分割した。デイケア群は,週2回以上の運動療法,温浴治療プログラム(デイケア)を施行。来院時に血圧,脈拍数を測定し,うち19例は,初診時と6カ月目に血圧日内変動を検討。またデイケア群に対して,治療の前後にQOLのアンケート調査を実施した。【結果】コントロールと比較して,デイケア・降圧薬治療群は同様に緩徐な降圧を認めた。デイケア群の血圧日内変動は,日中の時間帯で有意な降圧を認めた。QOLでは一般症状,全身症状,情緒状況,睡眠尺度,社会的関心で有意な改善を認めた。【総括】老年者高血圧に対するデイケアは,QOLを損なうことなく緩徐な降圧をもたらし,血圧の日内変動にも好影響をもたらすことが示され,心血管系事故の減少につながると期待された。
I諸言
老年者高血圧患者に対する診断と適切な治療は重要視されている1)2)。Framingham 研究3)をはじめとする欧米の研究および久山町研究4)。などにおいても,収縮期高血圧と拡張期高血圧は心血管疾患の重要な危険因子であることが明らかにされている。米国のSHEP(Systolic Hypertension in the Elderly Program)5)では,60歳以上の収縮期高血圧(収縮期血圧160〜219mmHg,拡張期血圧<90mmHg)の患者を対象に平均4.5年間の利尿薬治療により,脳血管障害36%,冠動脈疾患27%,心不全55%,全心血管疾愚32%の抑制を認めている。
近年,Ca措抗薬やACE阻害薬などの有効な降圧薬の登場により,降圧は比較的容易となったが,高齢者では薬物治療の際に副作用が出やすく,安易な降圧療法は患者のQuality of Life(QOL)やコンプライアンスを低下させることもありうる。最近の米国合同委員会の第6次報告(JNC-VI)6)においても,軽症高血圧に対する治療法として生活習慣の改善(lifestyle modification),すなわち非薬物療法を薬物療法以前の降圧療法として強調している。
高血圧の治療は長期にわたるので,血圧を下げて合併症を予防するだけではなく,患者の家庭生活,社会生活に対する影響が少ない治療法が求められるようになり,降圧療法がQOLに及ぼす影響の重要性がますます認識されるようになってきた。降圧薬のQOLに及ぼす影響については今までに多くの研究者たちが調査を行っているが7)8)、lifestyle modificationがQOLに及ぼす影響についての報告はほとんどない9)。このたび我々は,老年者高血圧患者に対して,デイケア施設で医師や理学療法士,作業療法士らによりlifestyle modificationを中心とした管理を行い,血圧とQOLに及ぼす影響について検討したのでここに報告する。