薬局薬剤師が在宅ケアに関与する効果も検討した。その効果は,介護者のない在宅患者の服薬状況において,特に発揮される可能性があると思われた。これには,単に言葉の指導のみならず,薬箱などのような手作りの用具を工夫したり,他職種の協力を仰いだりの努力が払われている。多くの患者介護者が,訪問薬剤管理指導に満足していたことと考えあわせると,前述の医薬分業の推進と同様,在宅ケアヘの参加においても地域での積極的な姿勢が効果を上げていると考えられる。
町の全薬局が医療・保健・福祉の連携に関わることに対し,薬剤師を含む専門職種がどのように評価しているかの調査も行った。職種によって,メリット・デメリットの捉え方が若干異なるようであった。従来,看護婦やホームヘルパーなどが,不充分な薬剤の知識のまま,薬品絡みの業務を行っていた問題点が是正されたことや,ヒート包装・一包化渡しや剤型の工夫などの,医療機関内で処方していた頃には徹底し切れなかった患者にあわせた細かい対応についての意見がみられ,専門職に特徴的な回答が多かった。同様に,薬剤師も,与薬後の効果を自ら確認できるなどのメリットをあげるものが多かった。すなわち,これらは,概ね,医薬分業の効能に属する意見とまとめてよいと思われる。
ともあれ,へき地では門前薬局が得がたく,したがって,こうした医療機関での院外処方は難しいとする,医療機関と薬局の関係における一般的な見解がある。これに対して,われわれは,もっと包括的な発想で,当診療所の院外処方への移行を契機に,町内のすべての薬局を医療・保健・福祉の連携に取り込み,町ぐるみの在宅ケアの推進および質的向上に少しばかりの成果を認めた。診療所経営の安定も結果として付いてきた。われわれは,地域医療のすすめ方のひとつとして,いわば「薬局の地域化」を促進する方法も念頭に置く必要があると考えている。
最後に,この医療・保健・福祉の連携における実践経験から学んだ基本視点に触れ,薬局の地域化をすすめる上でわれわれが重要と考える提言をしたい。
月並みではあるが,しかしやはり,医療・保健・福祉の有機的な連携には,キーパーソンの存在とネットワーク作りが不可欠である4)。これはあらゆる連携の成否を決め得る通則とでも呼べるほど重要であることを,このたびあらためて認識した。キーパーソンといっても,当たり前だが,組織のピラミッドの頂点に位置するのではなく,多職種と対等に付き合える大局的な調整役を務めなければならない。また,各職種単位の中にもキーパーソンが必要である。当町の取り組みにおいても,全薬局を調整する一薬剤師が,楽局群を代表するキーパーソンの存在を果たしている。そして,相互の仕事を知るべく,多くの職種と努めて多くの意見交換を交わし,ネットワークを作ることも大切であった。地域の意見や情報を得るべく,地域住民と交流し,住民とのネットワークを作ることも考慮した。もうひとつ重要なのは,連携するチーム全体で目的・目標・意志を共有することである。われわれは,在宅での生活を望むひとが多いのだから,できるだけそれを支援していこうということや,支援のある在宅医療の長期予後はよいということなどを巨視的な目標として時々確認している。本稿中に提示した,多職種が服薬の徹底という目標に集中した事例のように,個々の目標は,普段の何気ない多職種間の会話や在宅ケア会議などで常々確認するようにしている。
薬局とともに行う地域医療をすすめる際,薬局がどう自身を捉えるか,あるいは他職種が薬局に何を求めるかということの明確化は大切な観点である。まず,薬局を含む地域において薬剤業務に関する認識の変換を行う必要がある。「かかりつけ薬局」・医薬分業は地域サービスの一環であるという,比較的新しい認識を前提として育てたい。また,例えば在宅ケアの現場では,薬剤について問い合わせがあることも多い。ここに薬剤の専門職種が関与する意義が大きいことに気付きたい。薬剤師は,在宅ケアの単なるマンパワーの一員になったり,訪問がマンネリ化して薬剤の配達や服薬状況・残業の確認のみに終始したりすることなく,専門職として認知・評価されてこそ,地域薬局としての存在す面値が出てくるのである。次いで,この変換した認識のもとに,新しい薬局のスタイルを形成していくことが重要になる。副作用の未然防止・早期発見,安全性のモニタリング,薬剤による日常生活動作・生活の質への影響の確認などを中心に薬剤管理指導の再構築を図りたい。そうすれば,患者・家族にとって「何かをしてくれる薬剤師」になり,在宅医療の要にもなり得