日本財団 図書館


そして,ひとつの町に薬局が4施設あり,その大半は古くから地域に根付いているというような当町の事情を熟慮し,われわれは,医薬分業の推進を軸に,医療・保健・福祉の連携を図っていこうと想起した。

へき地診療においては,経営的な観点からしても,例えばいわゆる門前調剤薬局が設立されることは現実的にはなく,したがって,医師が薬剤師の支援なく診療機関内の薬局の管理に責任を負っているという実態が判明している2)。当診療所においても門前薬局はなく,最も近い薬局でも0.5km離れている。したがって,診療所から距離のある薬局に対する院外処方に切り替えることには,高齢患者が多いため労苦をかけ得るという面や,院外処方に伴う経済的負担増という点などにおいて,試行決定当初は,危惧する向きが強かった。

一方で,平成6年から在宅患者訪問薬剤管理指導が薬剤師の業務として調剤報酬化され,薬局薬剤師が,在宅ケア,地域医療の一翼を担うことが可能になった1)。しかし,地域における組織的な連携に薬局が参入している例は,まだ極めて少なく1)、モデル事業として実施される場合も多いのが実状である1,3)

このように,門前薬局が得られないため医薬分業を危惧された診療所と,時代が要請する地域のかかりつけになり切れない薬局とが,相互にサポートすることで,医療・保健・福祉の連携の強化と活性化という共通の目的を達成しようと試みることになった。特にモデル事業というわけではなかったが,結局,町内すべての医療機関が全面的に院外処方に移行し,同じくすべての薬局がこの連携に参加するという,町ぐるみの取り組みが,1998年4月に始まった。このたび,この地域包括的な連携において,他の地域においても還元が可能と考える一定の成果・示唆を得たので報告する。

 

040-1.gif

図2 当町の医療・保健・福祉の連携システム

 

表1 医薬分業に伴うメリット・デメリット質問票(複数回答可)

(メリット)

040-2.gif

 

(デメリット)

040-3.gif

 

II 調査

 

A. 医療・保健・福祉の連携における薬局の参加前後の患者意識調査の比較

1998年3月に,同年4月から,当町の地域包括的な医療・保健・福祉の連携に,医薬分業の推進とあいまって地域薬局が参加するという広報を行った。例えば,医療機関に行って介護や福祉に関わる悩みなどを話せば,その情報はその施設止まりにはならず,サービス機能を調整する在宅介護支援センターや,適切なサービスを提供する施設に連絡が行く。そしてこのような悩みには,どこの施設であっても同様の対応・返答がなされるので,地域住民はどこででも気軽に相談可能で,4月以降,薬局でもその機能を持つということを明示した(図2)。そこで,医薬分業について導入前の実態を,1998年3月25日〜3月27日の期間に,当診療所の外来通院患者102名を対象として,アンケート方式で調査した。調査項目は,1]医薬分業という言葉を知っているかどうか,2]医薬分業のメリット・デメリットと思うものについての2点とした(表1)。1]で医薬分業を知らないと答えたひとには,その概念を説明した上で,2]の問いに答えてもらった。なお,一般的に言われる医薬分業のメリットのほか,当町のシステムでは,薬局が在宅医療の対象のみならず,外来通院患者にも無償で居宅に薬剤を配達することも特徴的な利便であることを付け加えた。同様の調査を,システム始動後の1998年8月26日〜8月28日に,同じく外来通院患者84名を対象に実施した。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION