その他,約12年前,著者自身が埼玉県大滝村国保診療所に勤務中,診療所職員と共に経験した未発表食中毒も,感染源を考える上で注意を喚起したいと思い,併せて報告する(図1-2)。
結 果
平成10年の患者32人の年齢構成は,10才以下3人,20才代2人,30才代2人,40才代2人,50才代7人,60代3人,70代10人,80才代3人で,50才以上の中高年者が23人と多かった。性別は女性22人,男性10人だった。
発症の時間が明確なものは24例であった。
突然の発症及び症状の持続が夜間から早朝にかけてであったものは18例で,症状の激しい時に往診や当院受診したのは3例のみで(No.22,No.23.No.24),No.23,No.24は旅行者で,当地到着直後に発症し受診した。No.23は明らかに血便を呈していたが血便の訴えはなかった。休日2日間をおいての検体提出のため菌陰性と思われた。腸炎ビブリオを疑った。症状の激しい時に救急病院を受診した例は3例(No.7,No.17,No.21)で,症例No.7は早朝,救急車で受診したにも拘らず便検査は施行されなかった。No.17,No.21も便細菌検査は施行されていない。症状が回復しきらないため当診療所を受診している。患者は置き薬使用や自己で経過観察をし,症状が回復すれば受診しない。
症例No.8は,同一船上で食べた魚の刺身で仲間5人も同時に発症しているが,他の5人は何処にも受診していない。
症例No.31は症状が発症して3日目に再度発症し,この時に初めて発症した娘58才と初めて受診し,尿ケトン体が強陽性で,脱水症状の改善と共にケトン体は消失した。
○原因食品
海産物19例(日常的に魚の刺身ほか海産物を摂取している地域性のためか,詳細に聞いたが不明点が多かった)。
明らかに分かったのは,朝や昼に調理した刺身を冷蔵庫に保存して食べたという例が2〜3例あった。
No.5のにぎり飯は発症時間としては早すぎるようだ。患者の思い込みがあると思う。
病原性大腸菌O1に関しては,昨年A家族例では,ぶどう,うどん等が疑われた。本年は2症例とも不詳であった。
○症状,所見(検査をしたものの内,有所見者のみ記載)
吐気や嘔吐1〜数回先行した後,頻回の下痢,腹痛を示す例が多かった。
所見としては,腹鳴の聴診6例,圧痛があるものが数例であった。血便を訴えた者は1例にすぎなかった。頭痛は2例あった。
採血検査での異常値があったのは白血球増多で30000(No.11),13500(No.19),11000(No. 7),7500(No.18)の例があった。
CRP+4(No.11),CRP+8(No.18),CRP十2(No.5),アセトン尿(No.31)の各1例ずつだった。
発熱は6例と少なく,特に38.0℃以上の熱症例は4例(No.17,No.21,No.27,No.28) で, No.27,No.28は最終的に10才の妹が消化器症状のない感冒症状で3日後に発症し,初発の激しい嘔吐も感冒性胃腸炎(ウイルス性胃腸炎)と思われた。
受診回数1回が25例で,便細菌陽性者も症状が改善すれば結果を聴きに再来院することはなかった。受診回数2回以上の7例では,病原性大腸菌陽性2例を含んでいる。
便細菌検査をした26例のうち,便細菌陽性者13例で,その内訳は腸炎ビブリオ10例,病原性大腸菌O1(ベロ毒素陰性)2例,黄色ブドウ球菌,その他1例であった。
便細菌検査をしなかった6例には,感冒性であることが疑わしくなった1例,救急病院を受診後で症状が改善していた2例,往診をしたNo.22で美容師のため公衆衛生知識があり意図的に吐物を提出しなかった様子が窺え,問題提起をさせられる1例を含んでいる。