外来にて経過を観察したところ,腹部全体の痛みはしだいに軽快した。しかし,右下腹部の圧痛は3カ月ほどみられた。32日後の内視鏡所見では,発赤と軽度の浮腫が残っているが改善を認めた(図1b)。その後,3年間に2度の増悪がみられたが,初回ほどの腹痛は出現せず,食事指導を行い,整腸剤,経口抗生剤で加療し軽快した。
単純性潰瘍は肉眼的にも組織的にも腸型ベーチエット病との区別は難しく2),本例も経過によってはベーチエット病の診断を満たす可能性も考えられる3)。また一般に難治であり,外科的切除がなされる場合も多い。近年,栄養療法の有効性が高いことが報告されており4)、本例も病初期であったため保存的治療で軽快した可能性も考えられる。しかし,寛解後の再燃も多く,慎重な観察が必要であろう。
図la/b 症例1
a:回腸末端部に白苔を伴った単発の潰場を認めた。
b:32日後,改善を認めた。
B 症例2
50才,女性。主訴:右下腹部痛。家族歴:特記すべきことなし。既往歴:急性虫垂炎。現病歴:4日前より右下腹部痛が出現し,初診。下痢は伴わない。受診時現症:右下腹部に自発痛と圧痛を認めた。腹膜刺激症状は明らかでなかった。検査所見:白血球数9,300/mm3,CRP 4.0mg/dl,便細菌培養でAeromonas hydrophiliaを認めた。大腸内視鏡所見:初診時,回腸末端部が全体に浮腫状でアフタ様の潰瘍を認めた(図2a)。生検組織では明らかな肉芽組織はなく,慢性炎症の所見であった。経過:Aeromonas hydrophiliaによる感染性腸炎と診断した。絶食とし,中心静脈栄養を行い,抗生剤(CMZ2g/day)を投与した。10日後の内視鏡所見では,軽度の浮腫と小さなアフタ様潰場を認めるのみとなった(図2b)。2週間後,退院となった。
エロモナス腸炎は,1982年にAeromonas hydrophiliaとAeromonas sobriaが食中毒の原因菌に加えられて注目されるようになった腸炎である5)。本邦の内視鏡所見の報告では,罹患部位については様々であるが,大腸の罹患率が高く,本例のように回腸末端部に限局した報告例はみられない6)7)。本例はエロモナス腸炎の多様性を感じさせ,貴重な例であったと思われた。
図2a/b 症例2
a:回腸末端部が全体に浮腫状でアフタ様の潰瘍を認めた。
b:10日後改善がみられた。
C 症例3
59才,女性。腹痛,下痢。家族歴:特記すべきことなし。既往歴:急性虫垂炎。現病歴:3日前より間歇間駄的な腹痛と1日数回の軟便があり,しだいに痛みは右下腹部に限局性となり初診。受診時現症:右下腹部に自発痛と圧痛があり,軽度の筋性防御を認めたが,Blumberg徴候はみられなかった。検査所見:白血球数12,100/mm3,CRP1.0mg/dl,便細菌培養は陰性であった。大腸内視鏡所見:初診時,回腸末端部の浮腫,潰瘍,出血,びらんを認めた(図3a)。生検組織は慢性炎症の所見で,肉芽組織は明らかでなかった。経過:起炎菌は同定できなかったが感染性腸炎として治療し,中心静脈栄養を行い,抗生剤(CMZ 2g/day)を投与した。11日後の内視鏡所見は軽快していた(図3b)。その後,2年経過しているが異常はみられない。
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