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右下腹部痛を有し,大腸内視鏡検査にて回腸末端部に病変を認めた5症例

―へき地における大腸内視鏡検査―

 

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要旨

 

群馬県六合村は人口約2,100人で,高齢化率も25%を越えている山間へき地である。村内唯一の医療機関である六合温泉医療センターでの大腸内視鏡検査525例中(1993年9月〜1996年7月),右下腹部痛を有し,回腸末端部に炎症性病変を認めた5例を経験した。5例の診断名は単純性潰瘍1例,エロモナス腸炎1例,感染性腸炎1例,緑膿菌腸炎1例,クローン病1例であった。診療所の特性を活かし,受診後,速やかに大腸内視鏡検査を行う事ができた。また,全例で大腸には明らかな病変はなく,回腸末端部の観察にて病変を確認することができた。病初期に大腸内視鏡検査にて病変を確認できたことが有効な診断と治療に結びつき,へき地においても適切な治療を行うことができたと考えられた。また,各症例も示唆に富むものであり,大腸内視鏡検査を行い,診断をより確実にするよう努めることは,へき地に従事する医師にとっても医療知識,技術の向上につながるものと思われた。

 

I はじめに

六合村は群馬県の北西部に位置する山間へき地である。村内には医療機関は診療所1カ所であり,以前は医師1人の無床へき地診療所であったが,1993年9月より医師複数で19床の有床診療所をもった六合温泉医療センターとなった1)。以来,大腸内視鏡検査の件数も増加し,1993年9月〜1996年7月の間に525件施行した。そのなかで,右下腹部痛を有し,大腸内視鏡検査で回腸末端部に炎症性病変を認めた5例を経験した。病変を確認することにより,へき地においても適切な治療を行うことができたと考えられた。へき地においての貴重な経験と思われたので報告する。

II 症 例

A 症例Ι

55才,女性。主訴:右下腹部痛。家族歴:特記事項なし。既往歴:急性虫垂炎。現病歴:以前より疲れると口腔内アフタができやすかった。1カ月前より右下腹部痛がみられ,2週間前より口腔内アフタが出現し初診となった。受診時現症:口腔粘膜にアフタを認めた。眼球,外陰部,胸部に異常はなく,腹部全体に圧痛をみとめ,右下腹部が最強であった。筋性防御は軽度で,腹膜刺激症状は明らかでなかった。検査所見:白血球数10,200/mm3,CRP0.4mg/dl,便細菌培養は陰性。大腸内視鏡所見:初診時,回腸末端部に白苔を伴った単発の潰瘍を認めた(図1a)。生検組織では浅い潰瘍が形成され,肉芽組織がみられた。経過:潰瘍の形態と口腔内アフタを伴うことから単純性潰瘍と診断した。消化機能に負担をかけないように食事指導を行い,さらに,初診時に行った上部消化管内視鏡検査にて多発性胃潰瘍が認められたため,ファモチジン40mg/dayを投与した。

 

 

 

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