II プライマリ・ケアの体験事例
与論島は鹿児島県の最南端に位置し(図1),鹿児島市からは560キロという距離にあり,現在は人口約6,300人と減少傾向にある。島の大きさは周囲約22キ口で,隆起珊瑚樵でできている。年中温暖な気候は長寿の島の一翼を担っている。ここでのプライマリ・ケア医としての体験事例を提示する。
表題:プライマリ・ケア医の体験した妊娠週数不明な妊婦の出産
事例発生時期:平成2年11月
本文:自宅にて会合中,突然の分娩に電話で呼びだされた。島には産婦人科医が常駐している事もあるが,この時期には不在であった。妊婦は4度目の経産婦で,一度も妊婦検診を受けていなかった。従って,妊娠週数をはじめ詳しい状況は全く不明であった。自宅で破水し陣痛が始まっていた。子宮口も約10cmとほぼ全開で,母子搬送の余裕もなく,まもなく出産。児はアップガースコア良好であったが,体重1,900gのため低出生体重児として,念のために定期便YS-11にて沖縄の病院に搬送した。
与論島は地理的には沖縄県に近く,従って急患搬送は殆ど沖縄となる。この症例では,プライマリ・ケア医として離島では産婦人科の知識と新生児に対応できる知識と技術が必要である事を確信した。
III 与論島の救急医療
1995年(平成7年)に与論病院(80床の個人病院で内科,外科,小児科)が開院し,急患搬送は従来の町立診療所から一気にこちらに移った。また沖縄をはじめ近隣諸島にこの病院の系列病院があり,島外搬送もこれまでとは若干意味合いの違ったものとなった。しかし,重症患者のストレッチャー搬送は