VI 考察
小児気管支喘息は,アレルギーを主とする多様な因子が組み合わさって発症し悪化する。その対応は,衣・食・住はもとより家族関係や心理環境を含めた幅広い視点でなされるべきであり,多彩な専門職集団のチームワークが求められる。
幸いにも医師,看護婦,生活指導員,臨床心理士,MSW,保母,栄養士など熟練した専門職の集まりがあり,自然環境も社会環境も小児の気管支喘息治療には最も適した土地に上天草総合病院は立地していた。
1965年からわれわれは小児気管支端息児に対する集団療法をはじめたが,その後1968年には石坂公成博士のIgEの発見があり,以来アレルギー学の飛躍的発展があって治療関係者を勇気づけてくれた。試行錯誤の繰り返しのうちにわれわれの方式も漸く定着して来たようである。
現在までに発表した資料に些かの知見を加えて小論をまとめた。
20年前のわが国の小児喘息罹患率は1乃至2%といわれていたが,1981年にわれわれが西日本小児喘息研究会(代表:西間三馨)9)として中四国,九州,沖縄の55,000人の児童を調査したときは,小児喘息罹患率は3.17%になっていた。現在では6乃至7%と倍増している。
気管支喘息だけでなく,アトピー性皮膚炎,アレルギー性鼻炎,アレルギー性結膜炎などアレルギー疾患の全てが増加し,また罹患年齢も0歳児から高齢者まで幅が広がっている。
その対策は国民保健を守るためにゆるがせに出来ない大きな問題となっており,関係者の一層の努力が求められている。
VII 結語
へき地離島の町立病院で,過疎と海とを武器にして小児気管支喘息の治療に取り組んできた。34年が経過して関わった子供の数は4,558名になり,発表した演題や論文も多くなった。その間,一致協力して臨床や研究に励んできた喘息センターを中心とする職員,特に共同演者や共著者となった人達には深く感謝したい。また助言や指導を頂いた小児科学会,アレルギー学会,心療内科学会などの先達にはかさねて御礼を申し上げたい。
文献
1) 岡崎光洋ほか「喘息キャンプの教育的効果」,第14回小児難治喘息・アレルギー疾患学会記録集,56-58, 1997.
2) 岡崎禮治ほか「医療施設利用型ぜん息キャンプの実施内容の把握と発展の可能性」,公害健康被害補償予防協会,第8回研究懇話会発表要旨集,45-47, 1997.
3) 岡崎禮治ほか「小児気管支喘息集団療法の心身医学的意義」,呼吸器心身医学10,50-52, 1993.
4) 岡崎禮治「喘息児に対する家族関係の調整,特にparentostomyについて(会長講演)」,呼吸器
心身症研究会誌2-2,43-48, 1986.
5) 吾郷晋浩「心身療法・気管支喘息への実際的アプローチ」,呼吸器心身症研究会編,384-392, 1984.
6) 岡崎禮治「喘息児の海水浴鍛錬」,アレルギーの領域,12-13,34-38, 1996.
7) 岡崎禮治「タラソテラピー時代の幕開け」,全国自治体病院協議会雑誌3月号,1, 1993.
8) 岡崎光洋「親子離断によるIQの上昇」,呼吸器心身症研究会誌9月号,28-30, 1992.
9) 西間三馨ほか「西日本小学児童の気管支喘息罹患率調査」,アレルギー32(10),1063-1072, 1987.
(龍ヶ岳町立上天草総合病院 〒866-0293熊本県天草郡龍ヶ岳町高戸1419-19)