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障害受容のプロセス

私が現在勤務しております東京都心身障害者福祉センター(以下、当センター)には、身体障害者手帳の診断や補聴器交付のための判定に年間1600人以上の難聴の方がおみえになります。その中には難聴になってからの期間も長く障害者手帳による公的サービスについてや、自分に適したコミュニケーション方法に関しても熟知した方がいらっしゃいますが、むしろ大半を占めるのは、よく分からないまま「福祉事務所から紹介された」とか、補聴器に対する期待が大きすぎ「現実とのギャップが大きい」という方です。なかにはショックと混乱の中にあって、カウンセリング的関わりが必要だという方もいらっしゃます。また、具体的な問題として職業継続の危機にある方等もいらっしゃいます。

当センターでは、これらの診断や判定にみえた方の約1割が、継続的なリハビリ相談のメニューを利用されています。難聴者は、感覚の障害で中枢の処理が障害されているわけではありません。基本的には自己処理能力が高いため、コミュニケーション上の問題が解決し、障害が受容された段階では、適切な情報提供程度の援助があれば、自主的に就職活動をする等、進路の選択を自分で行える方が大半です。従って、難聴者へのリハビリテーションの中心的課題はコミュニケーションの問題をいかに解決し、障害を受けたことにより失われた(あるいは危機的状況にある)心理的・社会的な役割を回復・再生することにあると考えます。

当センターの相談業務の経験から、以前まとめた障害受容の段階と対人行動の関係を示した一覧を紹介します(表1)。この表では、心理的関わりが十分に必要な「ショック期」から、相手の難聴の有無に関わらず、必要に応じて他人と交流を持つことのできる「再適応期」まで、5つの段階が示されています。これらの段階は、現実の場面では明確に区切れるものではありませんし、失敗体験(勇気を振り起こして交流の場に参加したが、コミュニケーションが取れず孤立感を覚えたなど)があると、以前の段階にもどってしまうこともしばしばです。しかし、概ねはこのような段階を経て、障害受容のプロセスが進んでいくと考えられます。

私の経験では、「補聴器の限界を受け入れること」と「同じ障害を持つ方との交流」の2つは障害受容のプロセスの中でも鍵になると考えます。以下、その2点について整理してみました。

 

 

 

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