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第3章 聴能訓練、難聴者のリハビリ・メンタルケア

 

幼児期における難聴児の聴覚リハビリテーション

 

国際医療福祉大学言語聴覚障害学科

廣田栄子

 

1. はじめに

子どもは、生まれたときから日常生活での様々な物音や、人の音声に触れ、徐々にその意味を理解して話しことばの世界に入る。生後、わずか数年の間に、子どもが周囲で話していることばを習得するには、聴覚に入る情報を徐々に認識する過程が進んでいる。そこで難聴があり、子どもにこれらの情報が入らなければ言語の習得が妨げられることになる。しかし、現在では幼児期から補聴器を使用しコミュニケーション指導を始めると、難聴児に豊かなことばの獲得が可能になると考えられている。子どもは生き生きと本来の能力を発揮して種々の学習を進め、リハビリテーションが幼児の発達に及ぼす影響が大きいことが多くの例から明らかである。このような観点から、本章では、幼児期の成長過程での聴覚の役割、難聴の評価・検査の方法、補聴器適合、聴覚活用などについて概括し、難聴幼児に必要なリハビリテーションについて考えてみたい。

 

2. 幼児におけるコミュニケーション過程

通常のコミュニケーションの過程に、関連する器官について考えてみる(図1)。話し手は、言いたいことを大脳中枢で言語形式にかえ、発声器官の筋肉に指令が伝えられて発声筋を動かし、空気中に音波として送り出される。次に音波は言語音として聞き手の聴覚器官に入り、感覚神経を経て大脳に伝達され、聞き手はそのことばを理解することになる。聴覚器官はいわば音声情報を受け取る入り口にあたる。一方で、話したことを自分の耳で聞き、音声の大小やリズム、発音などをモニターする機能ももっている。そこで幼児は、日常的な音声コミュニケーションの場面で、くりかえし母親のことばを聞いて学習し、修正してより適切な言語の使い方を身につけていることがわかる。

しかし、幼児期に高度の聴覚障害がある場合には、このようなコミュニケーション過程でのことばの学習が困難になる。軽度・中等度であっても難聴を放置していると、言語でのコミュニケーションが難しく、密接な友達関係や場面の臨場感の乏しさによる疎外感から、幼稚園などの活動の参加が消極的になる側も少なくない。そこで幼児期にはできる限り早期に難聴を発見して補聴器装用を開始し、最大限に聴覚を活用することが極めて重要と言える。

ところで、コミュニケーションは聴覚と音声ばかりで行われているのではなく、日常的には視覚や触覚などの他の感覚を動員して受けとめている。例えば、話し始めの子どもにたいして、母親は「〜ちゃんほら電車よ、ガタンガタンて早いね」と手どもを抱き上げて[見せて]、同時に上下に[揺すりながら]電車の[話しかけ]をする。子どもは体を[動かし]ながら「電車ガタンガタン、バイバイ」と手を[振る]。このような場面では聴覚は五感の一つとして、他の感覚の情報を盛り込みながら、より実感豊かに会話が進められている様子がわかる。

難聴児では取り込みに有利な視覚情報と、難聴児なりに聞こえた音で彩られた世界で、リアリティのあるコミュニケーションが繰り広げられる用意をしていくことになる。

 

 

 

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