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には、コトバの音の中に含まれる情報のうち言語として重要な特徴を特別に選んで入力する必要が出てくるのです。昔刺激に対して聴神経がどの様に活動するかは、動物実験でなら詳しくわかりますが、このうちどの要素が言語認知に最も重要なのかは言語をもたない動物ではわかりません。これが人工内耳でどの様に聴神経を刺激するかを決めるのが難しい理由ですが、開発当初から幾多の試行錯誤を経て改良が加えられ、それに伴って人工内耳による語音認知の成績も着実に向上してきています。ここでは、各種の人工内耳に共通する機器の構成と現時点での最も標準的な符号化法(人工内耳がどのようにコトバの音を電気刺激に変換するか)について概説します。

 

1)人工内耳の機器の構成

人工内耳は一般に、体外部分と体内部分とにわかれます。体内部は受信用のアンテナとこれに続く発信器、そしてこの先にある細い蝸牛内電極部からなります(図5)。一方、体外部はコトバの情報を電気信号に変え、これを体内部に伝える部分であり、受信用の耳掛け型マイクロホン、スピーチプロセッサ、昔情報を経皮的に体内に発信する送信コイルからなり、このコイル(アンテナ)は磁石によって体内部のアンテナと皮膚を介して密に接しています。これらによって外耳、中耳、そして蝸牛の機能を代行しなければならないのですが、このうち、伝音系に該当するのがマイクロフォンであり、蝸牛に代わって、ある音に対して蝸牛内のどの電極にどの様に通電して聴神経を刺激するかを決定するのがスピーチプロセッサです。

 

図5

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スピーチプロセッサを含めた人工内耳の方式は、これまで刺激電極が一対だけの単チャンネル方式から、それが独立してたくさんある多チャンネル方式など様々なものがありました。人工内耳の幾つかの方式のうち、ロサンゼルスのウイリアム・ハウスという医師が最初に人工内耳を実用化したのは1本の電極を蝸牛に入れる、いわゆる単チャンネル方式でした。しかし、この方式では1対の刺激電極が異なる周波数を担当する聴神経をまとめて刺激するため、コトバに含まれる周波数に関する情報を充分に聴神経に送り込めず、音はきこえましたがコトバの情報は殆ど患者に伝えることができませんでした。そこで電極を複数化し、入力周波数に応じて蝸牛の別々の部分の聴神経を活動させてコトバの認知を可能にする多チャンネルシステムが開発され現在に至っています。

 

 

 

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