こうした補聴器フィッティングに際し、考慮すべき点を以下に列挙してみます。
(1)音への反応の成立による違い
音への反応が確実な場合は、得られたデータの信頼性、妥当性、安定性が高く、反応が不確実な場合は、これらが低いと考えられますので、何度か繰り返し検査をしながら見極めをする必要があります。乳幼児の場合は、とりあえずあるレベルで設定し、音との関わりをつけるところから始めて、音への反応の行動観察により評価をすることが大切になります。
(2)基本的な検査の手順
補聴器フィッティングのための基本的な検査としては、以下のことが必要になります。
(A)補聴器の選択前に必要な検査
・ティンパノメトリー(耳科学的所見): 必要なら治療を優先
・聴力検査:最小可聴域値(裸耳) 周波数特性、音量の推定
・不快域値 最大出力音圧の推定
・語音聴力検査(話しことばの受容検査): 単音節、単語
・騒音下での話しことばの受聴検査
(B)実施することが望ましい検査
・ラウドネスの評価
・ハンディキャップ度の評価
これらの聴能学的なデータを元に、装用耳、周波数毎にフィッティングルールを参考にしながら増幅の推定を行い、目標とする特性を設定します。そして、これらを満足できる補聴器を選定をしていきます。その際、表3の基本原理を念頭におきながら、進めて行きます。
(3)補聴器の特性の処方(必要利得と出力制限の処方見積)
基本的な聴能学データが得られ、装用耳も決まると、次に補聴器の増幅の特性を設定します。これらは、まず最初は、いわゆる補聴器の「フィッティングルール」に基づいて周波数毎に目標となる増幅レベルを推定します。これらのフィッティングルールは、数多く提案されています。代表的なものとして、ハーフゲイン法、ポゴ(ポゴII:Prescription of Gain Output)、NAL-R、AI法などがあげられます。
ここで、フィッティングルールについて簡単に説明しておきます。
ハーフゲイン:各周波数において聴力レベルの半分の値を挿入利得(補聴器装用時の増幅度)とします。