米作りには大きな喜びがある。手植えをする時には、「地球の中の一員として生かされている」ことを実感する。自分で作った野菜や米を食べられるという喜びはどんなものにも勝る。まさに生きている証、生きる喜びだと思う。
田舎暮らしを始めることが難しければ、グリーンツーリズムや農家民泊という方法も一つだと思う。グリーンツーリズムは、自然の景観や暮らしの習慣など農村にもともとあったものを都会の人に楽しんでもらうもの。若狭に農家レストラン(食堂)を作ったのも、集落にグリーンツーリズムの拠点を作りたかったから。若狭でも農家民泊を始める家が何件か出てきた。
こうして、人生の第3楽章ともいえる、農政ジャーナリストとしての歩みが始まった。
「農業」は、自然、環境、食、伝統、歴史、美、暮らし、それから政治、経済、教育などいろいろな面から考えさせられる大きなテーマ。いろいろな地域を巡って、多くの女性や若者たちと明日の農業について語り合っている。女性は、地域に根付いて活き活きと活躍している。田舎暮らしを始めるに当たっても、夫婦の場合は、妻が心から田舎暮らしをしたいと思っているのでなければ難しいだろう。
これからは、人生いかにうるおいのある過ごし方をするか、自分らしい過ごし方は何かを考えていきたい。テーマを持った人生でありたい。皆さん一人一人でそれは違う。若い時期にできなかったこと、あきらめていたこと、自分が自分のために、そして人のために何ができるかといういことを考えていく方が前向きで魅力的。素敵に年を重ね、素敵に年を取り去っていきたい。
橋のない川の作者である住井セイが93歳の時に出した「命を耕す」の中で、「今や人々は金を追い回すのに忙しすぎて、人間のことなどを考える暇はないのでしょうか。幸か不幸か私は、そんな才覚などを持ち合わせてないので、お話を産もうとします。」「21世紀は食料の自給できない国からつぶれていくでしょう」という言葉は非常に重い。食料が自給できないような精神構造になったら、日本人は日本の歴史や文化全てを捨て去ることになる。
宮本常一氏の「足下に文化あり。文化は足下から生まれる」。難しいことはない、自分の身近なところから文化は生まれるということ。
最後に、せっかくの人生、ご自分のステージはご自分でつくっていただきたいと思う。
3.パネルディスカッション
(司会)みなさん今日は、本日のパネルディスカッションの司会、里地ネットワークの事務局長の竹田純―です。
さて、「里地」という言葉、皆さんは初めてお聞きになる方が多いのではないか。
『里地』というのは、環境基本計画の中で国土空間を「山地・里地・平地・沿岸地域」と4つに区分した中の一つ。「日本人の原風景」「心のふるさと」のような「人と自然が共生」した地域。「里地ネットワーク」は、この里地で、人々の暮しと自然が共生した地域が創れるように、都市と里地、里地と里地が交流して、お互いに学びあっていこう。
行政も企業も研究者も市民も、みんなが協力して、元気で潤いのある自然と共生した里地を創っていこうと言うネットワーク。
今日の「新田園生活のすすめ」というシンポジウムには、21世紀の環境問題の解決のために、一人一人がエネルギーを浪費型の都市生活を止めて自給型・農的な生活をはじめ、食べものや環境への負荷を軽減すること、過疎化・高齢化の進む里地に新しい活力を注ぎ込むこと、自然と共生した生活の中で、豊かな潤いのある暮らしを取りもどすということなど多くの期待がある。