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私は、これまで、日本各地を旅して、様々な人と出会ってきた。「人との出会い」は人間にとって一番大切なもの。全国に、素敵に、見事に、「美しい日本の暮らし」を実践している人々がいる。これからの私たちの幸せは、物質的に豊かになることではなく、「美」を日々の生活の中に見つけていくことにあるのだと思う。一人では難しいが、人のネットワークをつくり、みんなでやっていけばできるのではないか。

どうして、女優だった私が、農や、食、環境といった問題に関心があるのかとよく聞かれる。中学生の頃から本が好きで、宮沢賢治、民俗学者の宮本常一、柳田邦夫などを良く読んだ。宮沢賢治の「おいの森、ざるの森、盗人の森」はおすすめ。そこで、たまたま手にした、柳宗越の本の中に、「ものをつくる人に美しいものをつくらせ、ものを使う人に美しいものを選ばせ、この世を美の国、浄土の国にしよう」という一節があった。子供心に、この「美の国、浄土の国」という言葉に強く惹かれた。宗越は、全国各地の無名の人のつくった手仕事を世に広めた人で、民芸運動の推進者。イギリスのバーナード・リーチ、木工の黒田達明、染色の芹沢啓介、河合寛二郎、浜田省吾、いろいろな人が民芸運動に参加し、日本の手工芸が今日残っている。私も、宗越を師と仰ぎ、その足跡を全国にたどるようになった。これまで3300市町村のうち、1200ぐらいの市町村を訪ねた。

そこから、「農」や、「食」や「環境」の問題に関心が結びついていった。

この40年間に、日本の農村も大きく変わった。昭和30年代、新幹線や高速道路ができ、便利になって良かったと思う反面、基盤整備の名の下にあぜ道がコンクリートで固められていった。多くのお年寄りから、「このままでは日本が壊れていく、壊されていってしまう」という言葉を聞いた。茅葺きの家屋が壊され、本当に切ない思いがした。

イギリスには、カントリージェントルマンという言葉があるように、田舎暮らしは皆の憧れ。農家民泊をしながら旅を楽しみ、古き良きものを大事にする。何故、日本人は、歴史も文化もあるのに、このような美しい暮らしを壊していってしまうのだろうか。私の場合は、解体される民家を見て、この木を捨てるわけにはいかない、というせっぱ詰まった思いで、福井県池田町のおばあさんの家を譲ってもらった。

ヨーロッパでは、30年前から農地を手放さないために何をしたらよいかを考え、グリーンツーリズム、農家民泊をやってきた。オーストリア、ドイツをはじめ、イギリス、フランスでも同じ。やっと日本でも農村休暇法ができ、遅蒔きながらスタートしたところ。

私は、戦後の食糧難の話を母から聞いて育ったので、現在の日本の農、食を巡る状況が健全とは思えない。アメリカからどんどん食料を輸入しているが、どれだけの残飯をだしているだろうか。もし残飯を出さなかったら、食料を輸入しなくても足りるのではないか。これからは「適地適作」が重要だと思う。遺伝子組み替え作物の安全性の問題もある。将来の世代にどのような影響が及ぶか分からないのだ。

こうしたこともあって、私も「農業」や「有機」について勉強し始めた。子供を育てるに当たって、一つだけ守ったのは、「健康な体と健全な精神」を育むために、農薬がどれぐらいかかっているか分からないような野菜や何を餌にしているのか分からないような肉を食べさせないことだった。専業農家の方から野菜作りを教わり、4年程前からは手植え、手刈りで米作りも始めた。福井県若狭にある11戸の集落でやっている。正直言って、村に入るというのは大変。噂もあっという間に広がる。10年間暮らす中で、仲間に入れていただいて、少し結の気持ちも分かるようになってきた。そこで、農家レストランをオープンさせた。開店後、3年経ち、現在は地域の人が運営し、利益も全て還元されている。

 

 

 

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