では、これからどうしたらよいのか、ということを総括したい。一つの試みとして、環境事業団では、工業団地からゴミ、汚水等を出さずに、地域内(周辺の農業地帯、住宅地含む)で循環利用するゼロエミッションプログラムを推進している。このように、コンパクトな地域ユニットの中で、モノを循環させていくという仕組みがカギになるのではないか。言い換えれば、「地域自立」。自給自足とまではいかないが、できるだけ地域内でエネルギーや、資源や、人が完結した形で廻っていく仕組みが求められるのではないか。これは、平成10年版の環境白書でも主張されている。こうした考え方は、「新田園生活」にも通じるものだと思う。ただ、「新田園生活」に至るまでには、もう少し距離があるので、ここは浜さんのお話につなげていただきたい。
2. 浜美枝氏基調講演〜明日を素敵に生きるために〜
自分の人生を振り返ってみると、25歳で結婚し、30歳で子供が産まれた。子供をどういう環境の中で育てようとかと考えたとき、都会の受験戦争の中で育てる自信がなかった。私は、子供の頃多摩川のほとりで、めいっぱい泳いで遊んで育った。そこで、自然が豊かで、東京からも通えるところで育てたいということで、箱根で暮らしはじめ、23年が過ぎた。昭和30年代の後半、日本の各地で茅葺き屋根の民家が壊されているのを見ていたたまれなくなり、解体した家々を譲っていただき、箱根に移した。子供たちが、幼稚園、小中学校時代に自然の中でいろいろなことを体験できて幸せだったと思う。
「紅葉の葉 紅いテントの 木の下で」
「霜の朝 つるんと転んだ 痛い朝」
長女が小学校5年生で詠んだ俳句。大自然の中で、親や学校が教えることのできない、遊びや共生といったことを体感できたのはよかったと思う。4人の子供が成長した今、あの田舎暮らしができてよかった、と思っている。
さて、今、日本という国に胸を張って誇りを持っているという方はどのぐらいだろうか。手を挙げて欲しい。お一人もいないようだ。何故だろう。
日本は物質的に豊かになった。しかし、食料自給率はカロリーベースでわずか42%、輸入野菜は66%、ウルグアイラウンド合意後は米も輸入、味噌・醤油の原料である大豆の98%はアメリカから輸入している。遺伝子組み換えの大豆もあり、安全性の問題もある。大切な食料をこれだけ輸入に頼っているというのは、先進国の中でも異常な事態であるのに、実感が伴わないということが問題だ。
日本は、情報も豊富で、平和で、自由な国なのに、何故、私たちは今の暮らしを、心から幸せだと思えないのだろうか。私たちは、子供や孫たちの世代に、何を誇りを持って受け継いでいくことができるのだろうか。私はずっとこのことを考えてきた。
それは、戦後50年の歩みの中で捨て去ってきたものの中にあるのではないか、というのが私の見つけた答え。モノとお金では幸せになれないということを私たちは感じ取っている。かつて、暮らしの中にあった「文化」、「自然の理にかなった習慣」、四季の変化に彩られた「美しい景観」。こうしたとても尊いものを私たちは軽んじてきたのではないか。
四季の自然も含めた「美しい日本の暮らし」こそ、次の世代に伝えていくべきもの。
田舎暮らしをしたいという人々は、もう一度こうした「美しい日本の暮らし」を取り戻したいと思っているのではないか。