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さて、日本の風土というのはモンスーンアジアのエリアに含まれています。5月の下旬あたりにヒマラヤ・チベット周辺の大気循環が変わります。南インドからミャンマー、インドネシア、マレー地域、インドネシア、揚子江から南、台湾、沖縄、日本というようなところから一斉に雨期が始まり、田植えのシーズンとなります。よく地図を広げて見るとユーラシア大陸全体の中でヒマラヤ・チベットの世界の屋根から8本の川が流れているのがわかります。この流域がぜんぶ森林。ユーラシア大陸の中で8本の川の流域以外には森林はないのです。この森を切り開いて生活をしているのがモンスーンアジアの住人です。

5月の下旬に気候が一変します。そして約6ヶ月の間は雨期となり、また日本の梅雨は雨期の一形態でもあります。そして、5月の下旬に田植えが始まります。そこでは必ず自然信仰、キリスト教とかイスラムのように一神教ではなく、たくさんの神様がいます。神様だけでなく精霊や鬼、妖怪・おばけ・物の怪や道祖神などがたくさんいるのです。アメリカやヨーロッパには、そのようなものは一つもありません。モンスーンアジアの住民の自然信仰、一番ベーシックな自然と一体になるという対象が、つまり森なんですね。

建築費全体に占める設備費の割合が、明治の始めぐらいはだいたい5%前後だったのが、これが第2次大戦後の30年代の半ばぐらいから20%を超えました。今はだいたい35%前後になっています。特にハイテクが入ってきてからの事務所建築では50%を超えています。建築費より設備費の方が高くなっているのです。このような設備付帯建築の最大のシンボルが東京都庁です。コンピューターを動かすために一年中冷房しています。人間のためではありません。生物としての人間にとって、都合の悪い環境の中で働いているのです。その最大の問題は外気温との差が大きくなって、いつも同じ気温、かつ乾燥しすぎて体温の調節機能がなくなってきている点です。結果として免疫力が低下しています。

戦前の在来工法、日本建築は換気と風通しを基本としていました。木とか土とか紙とかの呼吸する建材を基本としていたのです。日照権なんていうのは戦後に言われるようになってきましたけれど、日照権と同様に風通し権も必要なのではないか思います。戦前の場合は、普通に家をつくれば健全な正常な暮らしを送れたはずなのですが、昭和40年前後から違う状況になりつつあります。

換気と風通しを考えた住宅建築を考えることです。使用される建材が、プラスチック・石油系で充満している、いわゆる石油系のもので塗装されているものはだめで、生成りでないとよくありません。木竹土石という言葉がありますが、塗装や接着剤も自然系のものにしていく必要があります。

住まい手、そこに住む人ですね、暮らし手といいますが、消費者になっています。生活者ではないのですね、悪い言葉で言うと、無知・無経験となってしまっています。価値観、ライフスタイルが違うのです。生活者は物を生産し消費して土にもどしていく、そういう循環を生活の中で、暮らしの中で持っています。消費者はその一つの側面しか持っていません。工場で人がつくってくれたものをただ消費するだけです。同時に隣近所とのつきあいや家族のなかのつきあいもなくなってきています。

在来工法の住宅ですと大工さんを中心とする工務店といいますか、大工さんの棟梁が全部しきってきました。住む人が自分はどんな家に、どんな暮らしをしたいのかを大工さんに伝えてきました。現在の社会では、これはなかなか難しい事です。20世紀後半の設計士が工学部出身なのは非常に問題です。エンジニアにすぎないからです。それだから新建材しか使えない、そのため、木を使った設計ができないのです。

 

 

 

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